13年ぶりJIS安全色を改定
多様色覚者に配慮、五輪施設の適用急ぐ

4月20日、図記号の安全色及び安全標識規格であるJIS Z9103が13年ぶりに改定された。先天異常や白内障など色の見え方が一般色覚者と異なる多様な色覚者に配慮したユニバーサルデザインカラーを取り入れた点が最大のポイント。印刷やデジタルサイネージなど幅広い分野に関わっており、塗料色においても安全標識から景観色までさまざまな分野で標準色の変更が求められる可能性がある。


消火器を示す赤が黒に見える―。ある色弱者と言われる人の色の見え方だ。安全色及び安全標識は、遠くからでも容易に危険、禁止、安全などを示す内容を一目で認識させる必要性がある一方で、多様色覚者に対しては、判別しにくい、分かりづらい色が使われているという現実がある。

今回のJIS Z9103の改正について、2005年版、2018年版の両方で幹事を務めた中野豊氏(日本標識工業会会長)は「2005年版で多様な色覚を持つ人達の存在を知りながら小さな改善にとどまった反省がある。その後も何とかしたいとの思いがあったが、案内用図記号規格(ピクトグラム)であるJIS Z8210が昨年改正され、安全色とも絡む赤、黄、緑、青について整合性を図るべきとの考えに至った」と改定の経緯を説明。更に「海外から多数の観光客が訪れる2020年東京オリンピック及びパラリンピックに間に合わせたかった」とオリンピックの開催が原動力になったことを強調した。

改正JIS Z9103の主な内容は、安全色として使用する赤、黄赤、黄、緑、青、赤紫の6色と対比色となる黒、白の計8色の全面刷新。日塗工標準色表、DIC各種カラーガイドから安全色各色の範疇に該当する色表を抽出し、一般色覚(5名)、ロービジョン(4名)、赤緑色弱(1型色覚5名、2型色覚4名)の計18名が安全色として標識に使えるか、色名の色に感じられるかなどを指標に分類。続いて絞り込んだ色票から色覚が異なる計132名が評価し、色を決定した。

その結果、マンセル値としては赤8.75R5/12(改定前7.5R4/15)、黄赤5YR6.5/14(同2.5YR6/14)、黄7.5Y8/12(同2.5Y8/14)、緑5G5.5/10(同10G4/10)、青2.5PB4.5/10(同2.5PB3.5/10)、赤紫10P4/10(同2.5RP4/12)に改定し、白はN9.3(同9.5)、黒はN1.5(同N1)とした。色調整の方向性については下記の通り。

◇赤→1型色覚者が黒と認識しやすいため、黄みに寄せた。

◇黄赤→赤が黄赤側に寄ったため、黄みに寄せて色相を離した。

◇黄→黄赤側に寄っていて明度が低く、1型・2型色覚者が黄に感じにくかったため、赤みを抜いて明度をやや上げた。

◇緑→1型・2型色覚者には緑でなく灰色に感じられ、ロービジョン者には青と見分けにくかったため、黄みに寄せた。

◇青→明度が低く黒や赤紫との見分けが難しかったため、ロービジョン者が緑と見分けられる範囲で明度をやや上げた。

◇赤紫→2型色覚者が緑や灰色と見分けにくかったため、青と見分けられる範囲で青みに寄せた。

一般色覚者にとっては赤に明確な差異を感じるものの、その他の色はやや明度が上がった印象。ただ自ら1型色覚者として選定作業に参加した伊賀公一氏(カラーユニバーサルデザイン機構副理事長)は「これまで色のことで困ることが多々あったが、JISが障壁として立ちはだかっていた。今日から色が変わることを思うと感慨深いものがある。世界には3億人の色弱者がおり、今回のJIS改定を大きな前進として、世界に普及してもらいたい」と喜びを表した。

JIS改定により、交通機関や公共施設、道路標識などを中心に安全、危険を示す標識の色彩が変更されることが予想される。中でも事前にJIS改定の動きを把握していた空港やオリンピック関連施設などは、一刻も早い公示を求めていた経緯もあり、一気に採用へ動き出すことになりそうだ。ユニバーサルデザインカラーの観点で安全色を定めたのは世界初。将来的にはISO化も視野に入れているという。

発注者との確認作業が必須

JIS安全色が改定されたことで、標識、建築資材、舗道・床面、看板など塗装が施されている広範囲の用途に影響が及ぶことが予想される。まずは発注者からの指定を受けての対応となるが、メーカーにとっては新規色となるため、調色対応や性能評価などの再検討が求められることになる。

ただ現在発行している日塗工標準色(最新は2017年J版)には、安全色で規定する黄、緑、青は入っておらず、来年1月に一般販売を予定しているK版に盛り込まれる。そのため、約半年間は日塗工色として色票がない状態となり、一部メーカーと製販装の各団体事務局を除き、一般的に実際の色を確認するためには現状、色票が添付されている『JIS Z9103:2018図記号-安全色及び安全標識-安全色の色度座標の範囲及び測定方法』(日本規格協会)を入手する方法のみとなる。

特にこうした移行期に対し、日塗商の渋谷専務は「安全色で注文が来た場合に旧なのか新なのか確認する必要がある。マンセルで発注される場合もあるため丁寧な確認作業が必要」と指摘。安全色の採用分野は多岐にわたっており、業界全体の周知が求められる。



一般材料の色による改正前及び改正後の色
一般材料の色による改正前及び改正後の色

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