アメリカのペイント文化に触れる

アメリカの人々にとってペイントはとても近しい存在。家の外壁を、室内の壁を、ドアや家具を気軽に手軽に塗り替えて住まいや暮らしを楽しんでいる。どうしてペイントがこんなに日常に溶け込んでいるのだろうか...閉塞感が漂う日本国内の建築塗料ビジネスのヒントを探るべく、本紙企画の「米国・塗料ビジネス視察ツアー」を今年5月に催行。アメリカで「見た・聞いた・感じた」いくつかのトピックスをレポートする。


今回のツアーで訪問を受け入れてくれた建築用塗料メーカー・Dunn-Edwards社で聞いたところによると、アメリカの建築用塗料の市場規模(メーカー出荷金額)は1兆4,000億円ほどらしい。日本のそれが約1,600億円だから、およそ9倍の規模になる。

ふと思いついて、この金額を互いの国の人口で割ってみた。するとアメリカの4,300円に対して日本は1,270円。1人当たりの塗料(建築用)の消費金額(年間)にするとこんなにも開きがあるのだ。その理由がやはり住宅の違いや住まい方にあるらしいことが、ツアーのプラグラム「モデルホームの視察」で見えてきた。

住宅とペイントの蜜月関係

モデルホームの視察ではラスベガスのヘンダーソン地区にある住宅団地「TOCCATA at Cadence」を訪問。この団地は現在開発中で将来的に2万4,000棟規模の巨大な住宅団地になる予定で、現在800棟ほどが完成。そのうちのモデルホーム3棟を見学した。

住宅はツーバイフォーによる平屋建ての建売住宅で広さはタイプによって160~200㎡ほど。外装はモルタル下地にスタッコ吹付、内装(壁・天井)はドライウォール下地にエマルションペイント仕上げ。やはり内外装はすべて塗装だ。

天井高が3mという広々空間、アイランドキッチンや豪奢なキッチンキャビネット、3ベッド・2バスルーム、ウォークインシャワー、アウトサイドダイニングなどアメリカの住空間の豊かさにはやはり憧れる。

ちなみにこの住宅団地における価格帯は3,500万円~4,000万円ほど。リーマンショックで住宅価格は暴落したものの、近年の好景気を背景に年率10%という高い伸び率を示しているとのこと。それに伴ってアメリカ国内における住宅の流通が再び活気付いてきている。

ツアーガイドのCHIE TAYLERさんの話によると、アメリカでは仕事が変わるなどの理由で一生のうちに3~4回は家を買い換えるそうだ。そうした住宅の流通(売買)のおよそ8割は中古住宅。新築信仰の強い日本との大きな違いで、中古の住宅を売って新たに中古の住宅を購入するスタイルが人々の間に定着している。

中古住宅であってもメンテナンスの行き届いた物件は新築に引けをとらない価格で売れるとのこと。20年で建物の価値がゼロになる日本と異なり、古い家であっても建物そのものに経済価値が伴う。だからいま住んでいる家を常に良い状態に保とうという意識が働き、家のメンテナンスが日常の中に組み込まれる。そのメンテナンスにおいて「手軽でリーズナブルで効果的なのがペイント」(Dunn-Edwartds)だから人々にペイントが支持されている。家の外壁は8~10年ごと、リビングや寝室、子供部屋など室内の壁はそれよりも頻繁に塗り替えて住空間を満喫している。

冒頭で言及したアメリカと日本の1人当たりの塗料の消費量の違いは、住宅自体の大きさや住宅の内装需要の有無といった理由もあるが、塗り替える頻度の違い、つまりペイントが人々に近しい存在であるか否かが大きく影響しているのは間違いなさそうだ。

人々の暮らしに近づこう!

ペイントが人々の暮らしに近いアイテムとして根付いているのは塗料メーカーやペイントショップ、ホームセンターなどペイントの供給側の働きかけによるところも大きい。

今回、視察ツアーの訪問を受け入れてくれた塗料メーカー・Dunn-Edwards社はアメリカの南西部を中心に134の直営店を構える建築用塗料のメーカー。

各店舗にはカラーアドバイザーを配置。色選びや配色、カラーデザインに関するコンサルティングを行っている。地域の一般の人たちが部屋で使っているファブリックなどを持参して、どの色が壁に合うかなどを相談。約2,000色のカラーパレットから色をチョイスし、無料のクーポン券で8オンスのサンプル塗料も手に入れることができる。

宣伝方法もスタイリッシュだ。マーケティングではインスタグラムやピンタレストなどの画像をメインとしたSNSを活用。住宅やインテリアなどのシーンを通じてペイントの魅力をビジュアルに伝える情報を頻繁に投稿、人々の憧れを誘っている。その内容は、ペイントというアイテムを、住まいを着飾るファッションの地位に押し上げるほどの充実度だ。

ペイントを販売するペイントショップやホームセンターでも消費者への働きかけは活発だ。

訪問したペイント専門店「Tri-Color Paint」では一般とプロとの割合が半々ほど。日本では「一般客は説明が多く必要なわりに購入額が少ない」とぞんざいに扱う塗料店が多いのに対して、「私たちはペイントのプロフェッショナル。カスタマーが失敗しないように丁寧にコンサルテーションを行う。それがプロの証」と経営者のErickさん。同店に限らず、塗料を扱う人たちのプロ意識、消費者に対する向き合い方の積み重ねがペイント需要を育んできたのが容易に想像できる。

ホームセンターにおける塗料コーナーの売上比率は、大型冷蔵庫などが並べられている家電コーナーと肩を並べる1位か2位。家電商品と比べて単価の低い塗料でそこまで売り上げるということは、ペイントコーナーに立ち寄る客がいかに多いかということでもある。広いカウンターを設え、色や塗り方のコンサルテーションを行うことはもちろん、週末は近隣の人たちを集客してワークショップを開催、地道な普及活動を続けているという。

塗料によるメンテナンスが中古住宅の価格に反映するというアメリカならではの慣習は、日本ではまだまだ遠い世界(今回、ツアーに参加していただいた方の中に、そこに挑戦している人がいる!)。しかし、塗料の供給サイドがもっと人々の暮らしに近づき、塗料の魅力や価値を伝える努力は、知恵と行動でいくらでもできる。参加していただいた方々とも、そのことを熱く共有した視察ツアーであった。



ラスベガスに到着
ラスベガスに到着
Dunn-Edwards社の店舗
Dunn-Edwards社の店舗
Dunn-Edwards社では副社長のTimothy P.Bosveld氏がプレゼンしてくれた
Dunn-Edwards社では副社長のTimothy P.Bosveld氏がプレゼンしてくれた
モデルルームの外観
モデルルームの外観
内部もすべてペイント仕上げ
内部もすべてペイント仕上げ
私たちはペイントのプロとErickさん
私たちはペイントのプロとErickさん
ホームセンター
ホームセンター
ホームセンターの塗料コーナー。こんなに高くて長いラックが3~4列
ホームセンターの塗料コーナー。こんなに高くて長いラックが3~4列
塗料コーナーのカウンター。奥では自動計量調色機が3台稼働
塗料コーナーのカウンター。奥では自動計量調色機が3台稼働

HOMENew Trendアメリカのペイント文化に触れる

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