貼って剥がせるディスプレイ塗料を開発

塗料ディーラーの企画商事(本社・新潟市、社長・栗野勝氏)は、ハンドメイドによる塗布型ディスプレイの開発に成功した。「塗料には、多種多様な素材を活用し、機能が付与できるアナログ的な良さがある」と栗野氏。立体映像(3D)や浮遊映像の開発にも成功しており、塗布型、自然乾燥で製作可能な簡便性を武器に従来にないディスプレイ活用に期待感を高めている。


映像投影に使われる液晶パネルや有機ELに代表される光学ディスプレイは、高精細な画像を映し出すための偏光板や透明電極、カラーフィルター、ガラス基板など多彩な積層技術によって成り立っている。

それぞれの膜特性を生かすための分散技術や発色のためのカラーフィルター技術など塗料化技術に通じるところが多く、かつては一部の塗料メーカーがカラーフィルター事業に本格参入したほど。その後本業回帰の流れを受け、今はその面影を薄くしているが、ディスプレイの発色に使われるカラーフィルターが樹脂、顔料、溶剤を主成分にするなど塗料との共通点が多い。

ただ、ディスプレイに発色するためには、色の3原色となるRGBのカラーフィルターをミクロンレベルの枠の中で均一に配列させる必要があり、生産方式においては塗装と大きく異なるのが特徴だ。

それに対し、今回栗野氏が開発したのは、顔料分散、調色、自然乾燥と素材選定と製造工程ともに塗料・塗装の観点からディスプレイ開発にアプローチ。発色の要となるRGBの配列については、「3色の原料を均一に調色すれば、自然に配列が整った状態になると考えた」と調色技術を応用した。

実際、テストとして市販のエマルションタイプの蛍光塗料3色を取り寄せ調色し、本社事務所の窓に塗布したところプロジェクターの投影に成功。塗布時の引っかきや膜厚が不均一だったため鮮明な映像を得ることはできなかったが、塗膜による映像投影を実現した。

とはいえ、既存のディスプレイ市場とは一線を画す。むしろ同氏が目指すのは、高透明、高透過基材に対するプロジェクター映像の投影と、貼って剥がせるディスプレイ基材の開発。意匠性や機能性において透明であることが求められるガラスやプラスチック基材のディスプレイ化と持ち運び性に画期性を見出した。

事務所窓でのテストでめどをつけて以降、透明性と透過性を有するバインダーの選定や均一な膜形成を実現する塗装工程など映像の鮮鋭性や均質性を高めるための開発を加速させていった。

需要開発に挑む

そもそも同氏がディスプレイの開発に着手したのは、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した昨年5月。「感染防止パネルの設置が社内外で進む中で、このパネルに映像を映せれば面白いのでないか」と何気ないアイデアがきっかけとなった。

しかし、本業は建築、重防食、工業用塗料の販売を主力とする塗料ディーラーであり光学部品は未知の領域。栗野氏自身も前職の塗料メーカー時代は営業部に所属し、知見は一切ない。唯一、電子ボタンを製造する顧客に蛍光顔料を卸していた関係で、印刷技術や射出成型などに触れたことが開発に寄与が、ほとんどは書籍や論文で知見を得ては実践に生かす日々が続いた。

そうして約半年間の開発期間を経て実現したのがガラスやシート基材に塗布でき、自然乾燥による膜形成を可能にしたRGB分散液と製法の開発。無機顔料を主原料にしているため耐候性を保持する他、映像の鮮鋭性を示す画素数は1億を超えるという。

ただ透明基材に塗布できるディスプレイ塗料は先行企業があり、同社としては既に開発に成功している立体映像と浮遊映像の実用化を急ぎ、市場化で差別化を図っていく考えだ。

同技術は、透明基板への映像投影が可能で暗所を必要とする従来のプロジェクター用スクリーンと異なり、室内であればテレビと同じように視聴できる。またプロジェクターの位置も背面から投影できるため、正面にプロジェクターを設置するスペースが不要になる。

そこで同社が用途として視野に入れるのは、電飾広告、店頭広告、展示会、イベント、ライブ、ゲーム、テーマパーク、営業プレゼン、教育・教材など。「電飾看板なら製作費や電気代、維持保守メンテナンスに多大な費用がかかるところ、同技術であれば市販のプロジェクターとフィルムを貼るだけで、自在に映像を流すことができる」(栗野氏)と強調。映像も動画投稿と同じ要領で使用者が作成した動画を自由に反映することができるという。

「塗料には、市販で入手できる材料や素材を通じて機能が付与できる自由度がある」と栗野氏。まずは透明塩化ビニル(板厚3mm)にコーティングした中型パネル(ヨコ0.6m×タテ0.6m)と大型パネル(1.8m×0.9m)の2種類を揃え、リース及びレンタルで展開していく方針だ。



無機蛍光体RGBによる無機ELディスプレイ。 画素数は2億8,000万画素(指数対数計算値)
無機蛍光体RGBによる無機ELディスプレイ。 画素数は2億8,000万画素(指数対数計算値)

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