塗料メーカーからの運賃値上げを受け、塗料販売店において運賃を別建てにする気運が高まっている。これまで運賃を製品価格に含めて顧客に請求してきた塗料販売店の中には「ここで運賃を製品と切り離さなければ、今後の値上げに対応できなくなる」(販売店トップ)との見方がある。過去に運賃別建てに着手し、その後なし崩しになった経緯があるだけに慎重な姿勢を示す販売店も多く、足並みが揃うか今後の動向に関心が集まる。
今年2月末、大手メーカーが運賃値上げを発表して以降、同業他社も相次いで対応。4月に入り一気に運賃値上げの動きが高まった。改定幅は地域によって差があるが、現行運賃から倍近くの値上げに踏み切ったメーカーもあり、販売店に大きなインパクトを与えている。そこで浮上したのがメーカー運賃の別建て請求。運賃や諸経費を塗料代に含めてきた商慣習を改めることで収益低下を避けたいとの狙いがある。
特に今回、塗料メーカーが運賃のみを改定の対象にしたことが運賃別建てに拍車をかけている。塗料価格改定時に運賃や諸経費の上昇分を折り込めていた機会が失われるとの懸念がある。
更に販売店にとっては、塗料値上げと比べて少額な運賃値上げは顧客の受け入れが難しいとの感度がある。一度限りであれば、販売店が吸収せざるを得ない局面も想定されるが、運賃は今後も上がり続けるとの観測が運賃別建てを不可避にしている。「このタイミングで運賃を製品から切り離さなければ、将来的に運賃値上げを転嫁させることができなくなる」との危機感がある。
本紙は今年4月、四半期ごとに行っている景況アンケートで「運賃別建て」に関する時事質問を行った。
51社が回答したうち、運賃別建てが「必要だと思う」と答えたのは34社、続いて「必要ではない」4社、「分からない」11社、「その他」2社となった。7割近くの販売店が運賃別建ての必要性を訴えたかたちだ。
その一方で「必要ではない」「分からない」と答えた約3割の存在も見逃せない。
理由は「別建てにすると製品値下げを要求される可能性がある」「利益率が下がる」「自社配送であれば別にするべきではない」「足並みが揃わない」など。運賃別建てによるマイナス影響を危惧する声が聞かれた。
なお、主力販売品目による差異はなく、汎用(建築・自補修)、工業用とも同様の傾向を示した。
ただ、運賃別建ては過去にも業界を挙げて取り組んだ時期がある。現在も販売店から配送料を別途に請求を受けている塗装ユーザーもあり、現実不可能な施策ではない。重要なのは、販売店、顧客双方が一時的な負荷増大に耐えられるか。あとはどのような根拠を持って配送料を設定するかだ。
メーカー直送や小口配送を除く、通常の自社配送の際の手段として聞かれたのは①メーカー問わず販売店側が一律に独自の配送料を設定する②メーカー運賃を顧客に建て替え運賃として同額の請求する大きく2つ。
「弁護士に確認し、問題ないとの見解を得た」(都内販売店トップ)と管理がしやすい①を進める販売店がある一方、「メーカー運賃をきちんと提示することで理解を得たい」と②を選択する販売店もあった。
更に難しいのが、これまで運賃を含んでいた現行価格をどうするか。これについては「製品価格を下げて再設定する」「従来価格を維持し、値上がり分だけを配送料として設定する」と販売店によって考え方が分かれる。
導入実施には、顧客に対する説明協力と合わせて、社内共有の徹底や販売管理システムとの連携など、多くの実務的作業が伴う。ただ導入実現の最大の課題は、他の販売店と足並みが揃うか否か。方策が異なれば、複数の販売店と取引する顧客によっては混乱を招く可能性がある。法律に抵触する可能性があるため、コミュニケーションの取り方には注意が必要だが、同一地区においては協調が鍵を握る。
こうした中、先んじて運賃別建ての実施を表明する販売店が出てきた。いち早くスタンスを示すことで、同一地区における取り組みを牽引したいとの狙いがうかがえる。運賃別建てが競争要件にどのような影響を与えるかは不透明だが「事業の持続性を確保するため、なし崩しにしてはいけない」との覚悟も垣間見られる。
導入を決めた販売店の多くは、秋口からの本格運用を目指す構え。市況自体も予断を許さない状況が続く中、運賃別建てを収益改善の打開策に据えたい考えだ。