近年、公衆トイレの外観を壁画で彩る「アートトイレ」が各地で広がり始めている。暗くて怖くて利用しにくい公衆トイレを、「明るく楽しく気持ちよく利用できるトイレ」に変身させる活動。そこではもちろん、塗料と塗装が活躍する。業界企業のCSR活動としても取り組めそうな事例を、ある公園のケースで取材した。
東京都立赤塚公園(板橋区)は年2024年、開園50周年を迎えた。自然林に囲まれた気持ちのいい環境の中で、スポーツやレジャーなどのレクリエーションが楽しめる場所として、多くの人に親しまれてきた。
その園内で、人気スポットの1つがバーベキュー広場だ。都心にあるためアクセスが良く、四季折々の風景に囲まれてバーベキューを楽しめる。家族連れやグループで賑わい、いつも予約でいっぱいの人気スポットだ。
ただ、同公園サービスセンターの稲田純子センター長には、ひとつ気になっていることがあった。バーベキュー広場に隣接した公衆トイレだ。50年前の開園当初から建っているトイレのため、古くて劣化も目立つ。来園者から『使うのが怖い』といった声が寄せられたこともあり、「なんとかきれいにしたい」という思いが募っていた。
そこで開園50周年を迎えた今年、地域協創事業で「トイレOne Upプロジェクト」を立案。地域の人や企業と協働して園内の施設を改善する事業の一環として、バーベキュー広場横のトイレ外観の美化活動を進めることにした。この呼びかけに、地元の企画イベント会社・Time spotが賛同、プロジェクトが動き出した。
色で「きれい!」を直感させる
プロジェクトを進めるにあたり、稲田センター長たちがイメージしたのは、「アートトイレ」だ。トイレの外観をアートな壁画で彩り、「明るく楽しく気持ちよく利用できるトイレ」に変身させる計画。近年、各地の公衆トイレで広がり始めたアートトイレを赤塚公園にも取り入れることにした。
壁画のデザインを担当したのは、Time spotのアート教室で講師を務めているMieさん。そして壁画の制作に必要な塗料の提供や塗装作業で協力したのは、地元板橋区の塗料ディーラー・三興塗料(清水雄一郎社長)だ。いずれもボランティアで協力した。
地域貢献のCSR活動に力を入れている三興塗料は、「Time spotさんから声をかけられたとき、すぐに協力を申し出ました。地元を代表する公園ですし、多くの人に喜んでもらえる活動に塗料で関われるのは当社としても嬉しい」(清水氏)と協力を買って出た。
プロジェクトは2024年の春先に始動。何回かの打ち合わせを重ね、10月頃から壁画制作の作業に入った。
まず、三興塗料が洗浄と養生作業、外壁を白いキャンバスにするためのベース塗装を担当。営業、内勤、配送の各部門から日替わりで同社の社員が現場に駆けつけ、作業を行った。地域の塗装ボランティアなどで何度も経験しているので慣れたものだ。
壁全面を白いキャンバスに塗り上げた後に、Mieさんが考案したデザインを下描きし、着色を行った。トイレの外周の4面をそれぞれ、春夏秋冬の季節をテーマに表現。園内で見られる季節ごとの風景をアートにした。
中でも目を引くのは、色使いだ。赤、青、黄、紫、緑、オレンジ、ピンクなど強い色をたくさん使っているのに、騒々しさを少しも感じさせない。各色の面積比や隣り合う色のバランスが絶妙で、直感的に「きれい!」を感じさせる壁画。Mieさんのデザイン力だ。
そして、Mieさんが指定した色を再現した三興塗料の調色力も重要な役割を担った。下描き後の着色作業も含め、同社の社員の活躍が光った。
稲田センター長は、「こんなにきれいな色を発色できるなんて、塗料へのイメージが変わりました。そして、トイレの古い佇まいをガラッと変える塗料の力。三興塗料さんのご協力で、多くの来園者に喜んでもらえるトイレに生まれ変わりました」と感謝の言葉を口にしていた。
プロジェクト最終日の11月16日には、「みんなの木」と題したワークショップを開催。葉っぱに見立てた子供たちの手のひらで、さまざまな色を壁にスタンプし、壁の一角に「みんなの木」を描く試みだ。近隣から集まったたくさんの子どもたちの手のひらスタンプで「みんなの木」が完成。公園、地域そして業界の企業の力でアートな公衆トイレに生まれ変わった。