塗料会館をペイントリノベーション
デザインペイント元年の象徴に

東京・恵比寿にある塗料会館のロビーが大胆に生まれ変わった。色や紋様、デザインのダイナミズム、そして塗装技法の奥深さを余すことなく伝えるロビー空間はさながら「塗料・塗装のミュージアム」の様相。自由で豊かな表現力という塗料・塗装ならではの魅力を発信するモニュメントになりそうだ。


塗料会館の内装リニューアル塗装は、製・販・装の各団体が連携して進めている内装需要創出キャンペーンの一環。「当会館はテナントや会議などで多数の企業や団体に利用してもらっており、多くの人の目に触れるここ(ロビーの内装)から塗料・塗装の魅力を伝える発信地に変える必要がある」(日本塗料工業会・中村英朗専務理事)との考えがベース。デコラティブペイントの第一人者であるフォーアーツデザインのヨザン弥江子代表にデザインと監修を依頼、プロジェクトがスタートした。

ヨザンさんが打ち出したコンセプトは「日本の塗装、塗料を代表する会館をデザインペイントで表現し、塗装の幅、奥行き、醍醐味といった魅力を伝える空間にリノベーションする」こと。日本の伝統色と紋様を取り入れながらさまざまな塗装技法を駆使してデザインペイントの奥深さと可能性を表現。それまで白一色の単調だったロビーが、色のダイナミズムを感じさせながらエレガントで粋な、上質な空間に生まれ変わった。

ロビーに入るとまず感じるのが大胆な色使い。鈍色(にびいろ)や紅緋(べにひ)、青墨(あおずみ)といった日本の伝統色の中の濃色系の色が隣り合う壁に目を奪われる。更に天井の色も日塗工色75-40Dのいわゆる濃紺。濃色がもたらす圧迫感は静謐さに置き換わり、強い色が隣り合う反発は躍動感に変わるなど日本の伝統色が持つ"調和力"を教えてくれる。

同じように教えてくれるのが紋様の効果。「両滝縞(りょうたきじま)」や「青海波(せいがいは)」「千鳥(ちどり)」などの、やはり日本の伝統的な紋様をさりげなく配置。粋や遊び心を感じさせるだけでなく、色ばかりの空間に柔らかさをもたらし、逆に色を引き立てる効果も感じさせる。

更に効果といった点で見逃してならないのがやはりデザインペイントのテクニックだ。さまざまに駆使した塗装技法が空間演出に大きな効果をもたらしている。

例えばエレベータ横の赤い壁。紅緋を基調に色相と艶を調整した赤のグラデーションでスポンジングを施し、うるし調の壁に仕上げた。単調さをなくすだけでなく、光の当たり方や見る角度で表情が変わる塗装技法ならではの味わいが隠されている。

エントランスから地下の会議室に続く壁には樹木のデザインを配した。ヨザンさんがフリーハンドで描いたスケッチを拡大コピーして型にし、壁面にトレース。「禄衫(ろくそう)」「赤白つるばみ」「木欄色(もくらんじき)」といった平安時代の雅な色の雑木林に囲まれながら階段を通り抜けるイメージだ。

この他にもラギングやカラーウオッシュ、ステンシルなどデザインペイントの多彩なテクニックが随所に散りばめられている。色の選択と配色のバランス、紋様の配置、塗装技法による効果、採光や照明環境などすべてが調和しながら塗料・塗装にしかできない独創的な空間を形成。その魅力を余すことなく伝えるミュージアムに生まれ変わった。

塗装の新たなステージへ

ヨザンさんは今回のプロジェクトのもう1つのキーワードに「コラボレーション」を据える。とりわけ"塗装職人"とのコレボレーションだ。

今回のペイントリノベーションではほとんどの施工を日本塗装工業会技能委員会のメンバーとその塗装職人が担った。技能委員会の柏光一委員長は「下地づくりから仕上げまで延べ60人工ほどが関わりました。皆さんデザインペイントの塗装技法や表現力に強い刺激を受け、熱心に取り組んでいたのが印象的。私自身、とてもワクワクしながら施工に参加しましたし、我々の仕事の価値を高めていくためにもぜひ取り組まなければならない分野」とコメント、期待感を高めていた。

「塗装業界の方々がデザインペイントの感性とテクニックを持ち、アート寄りのニュアンスを携えることで、日本の塗装に対する世界観が大きく変わります」というのが、ヨザンさんが常々発している持論。塗装の魅力を発信する作品を、塗装業界の人たちとコラボレーションできた今回のプロジェクト。塗装の新たなステージを拓く「デザインペイント元年にしたい」と締めくくった。



 日本の伝統色を基調に空間デザイン
日本の伝統色を基調に空間デザイン
日本の伝統的な紋様を配置
日本の伝統的な紋様を配置
日本の原風景、雑木林に誘われる
日本の原風景、雑木林に誘われる
織り上げ天井は上品な月の表情
織り上げ天井は上品な月の表情

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