壁に"遊び心"を
磁力下地ペーパー

安全塗料(東京・八王子)は上質なインテリアペイント仕上げにこだわってきた。特にドライウォールのパネルは建物の動きを拾うため、きれいに仕上がったペイントカラーにクラックを発生させてしまう。溝口一成社長は10年前、独自のルートでドライウォール専用下地ペーパーを開発、大手ハウスメーカーに売り込んだ。反応は良くモデルルームなどで採用され、内装分野でのペイント復権につなげた。

次のステップがペイントカラーの世界に"遊び心"を注入するテーマ。ペイントカラーの楽しさに加え、もっとウォールを立体的に活用できないかと考えたのだ。そこで下地ペーパーに磁力を付与するアイデアが浮かぶ。類似品があったものの、磁力の強さで差別化に走る。

単身、国内最大手のマグネットメーカー・ニチレイマグネットと交渉に入る。マグネットメーカーも用途拡大を目指しており、インテリアマーケットへの関心から共同開発に合意し、約1年かけ昨年春に磁石がつくペイント専用下地ペーパー「ワンダーペーパーマグネット」を開発し上市した。そのアイデアの新鮮さでグッドデザイン賞を受賞するなど大きく評価された。特許も取得。また、この共同開発にはウォールデコレーションストア(東京)も参加。まさにコラボレーションの成果といえる。

「ワンダーペーパーマグネット」の特長は何といってもその磁気パワーにある。磁石を付けたアイテムを壁にしっかりと固定することができる。例えば文庫本用のラックで壁に造作でき最大3kgの荷重に耐える能力がある。ニチレイマグネットでは磁石付きのレンガ調のアイテムなどを商品化(写真)。ウォールをカラーリングと造作で可変的に遊べる要素を付与している。

安全塗料はネットを通じてのダイレクトセールで「ワンダーペーパーマグネット」の販路を確保。「現状は供給が追いつかないほどの売れ行き」だという。業販に関しては塗料販売店、ホームセンターなどに卸す。卸しチャンネルはインテリアペイントの動向と相関するため時間をかけて開発していく考え。


主張するインテリアウォール

「ワンダーペーパーマグネット」効果は異業種人脈へと浸透し、さまざまなコラボレーションの輪を広げる。そうした人的ネットワークを活用してモデルルームを実現。東京・西八王子にある集合住宅の1Kルームを、大家さんの承認のもとリノベーションしたのだ。

その集合住宅は築40年近く。JR西八王子駅から徒歩2〜3分という好立地にありながら、空き部屋が増えていた。空室対策としてペイントリノベーションのアイデアを持ちかけ、モデルルームづくりに着手。これに参加したのが手描き黒板制作のプロである藍田留美子さんと鉄の造形作家の2名。藍田さんはもともとデパートなどで宣伝ボード用のロゴデザインでキャリアを積み「黒板マーケティング研究所」を立ち上げたその道のパイオニアだ。

独自に編み出したアイデアである黒板を販促に活用する活動を推進する。あるカーディーラーの要請で6畳大の黒板を作成し、そこに藍田さんのユニークな描き文字デザインでシーズン(四季)に合わせたポップな広告図案を表現したところ、それまで通る人たちが無視していたショールームの集客力が倍増したという。黒板マーケティングの威力や恐るべし!

また黒板デコレーションに欠かせないのが鉄の造形だ。黒板を縁取ったり、アクセントを加える要素に鉄の造作を使う。「ワンポイントで鉄の造作を加えるだけで黒板の存在感、アピール度が飛躍的に高まります」と藍田さんは強調する。鉄の造形作家とのコラボは新たな発想を生む。鉄をシャビーにペイントし、そこにロゴ文字を描き入れる。表札から店頭ディスプレイまでといろいろだ。

溝口氏のペイントカラーと藍田さんのアイデアと鉄の造形家のコラボによる初の作品がモデルルーム。今回ウォールカラーと壁の造形までのデザインを藍田さんが担当した。とにかく「描く」ことが大好きという藍田さんにピッタリの企画。リノベーションのコンセプトは「昭和レトロに新鮮な息吹を注入する」。

ウォールカラーは大胆な配色となった。キッチンスペースは寒色そのものである彩度の濃いブルーにペイント。シンクの上部に鉄で造作された棚を取り付ける。棚は幅16〜17cmの板を鉄で縁取りし、支えはアールを付けシャビーペイントを施し、ブルーの壁を立体的に引き立てる。メインルームの壁はイエロー。ブルーとイエローの色彩効果で、何の変哲もない部屋は昭和レトロからハイパーモダンな雰囲気に変身。トリムとルーフにはベージュ系の色をペイント。そして「ワンダーペーパーマグネット」によって、壁にラックとブロック造形が付き、遊び心を刺激する空間となっている。

藍田さんは「住む人が自由に変えられる壁の可能性が実感できてとても楽しい仕事でした。私の仕事でもっとペイントの可能性を探りたい気持ちになりました」と感想を述べる。一方、溝口氏は「インテリアペイントの世界は、外部のデザインマインドのある人たちとのコラボで、これからもっと広がり深くなる要素がある。これを機会にコラボしたビジネスの方向を強めたい」と話していた。



イエローの壁に小物で造形
イエローの壁に小物で造形

ページの先頭へもどる