塗料物流を考える 酒販業の共同配送システム学ぶ

日本塗料商業組合青年部(会長・森健夫氏)は3月下旬、東京都内で「第9回企業研究会」を開催し、31名が参加した。今回テーマに取り上げたのは「共同配送について」。塗料販売店における配送機能の維持・強化に対する関心が高まる中、酒販店同士が連携し、20年以上にわたり首都圏1都3県で共同配送を行うフィットの清水祐輝氏(執行役員兼フィット事業推進室室長)を講師に招聘、共同配送に至った経緯や運用体制、今後の展望について聞いた。以下に講演要旨をまとめた。

 


酒販店・河内屋商店(1947年創業)を前身とする共同物流会社「ファースト・インテグラル・トランスポート」を設立したのは2000年5月。前年に河内屋商店の系列会社「河内屋物流」を母体に酒販店7社が出資して設立した会社で、2002年に現在の「フィット」に社名変更した。

一般的に業務用酒類の物流は、メーカー→卸→酒屋を経た後、酒屋が大小さまざまの飲食店に届ける。メーカー、卸にとっては、配送先が複数に及ぶため保管、配送コストが嵩む。また酒屋においても複数の方面に納品先がまたがるため配送効率が悪化し、かつ取扱商品数の多さや繁忙期の飲食店の要望に応えられない課題を抱えていた。

そこで、これらの課題を解決する手段として講じたのが共同配送。

フィットが卸倉庫と飲食店への配送を担う物流センターを設置することで、メーカーは運送先の一本化が図られる一方、卸と酒屋においても在庫管理と配送を一括で委託できるメリットを生み出した。当然、メーカー、卸、酒屋各間の商流は堅持し、配送先での顧客対応や伝票の電子化に注力するなど情報漏洩防止策を徹底した。

共同配送のメリットについて清水氏は、売れた分だけを仕入れにすることによる在庫リスクの最小限化、品揃えの拡充、共同配送による調達コストの削減に寄与すると指摘。配送件数においても「1台あたり30件の配送が40件から50件に拡充した」と配送力向上に寄与する点を強調した。

サービス体制においても情報漏洩防止の他、自社伝票の対応、オリジナル商品の在庫に対応。顧客の要望、不安を解消するサービスで受託酒店を広げ、現在約20社が加盟する。「配送先で得た顧客紹介などの情報も当該地区の酒店に同時に伝える」など平等性を原則とした仕組み作りで顧客の信用を獲得している。

現在は、東京(国立市、江東区)、神奈川(川崎市、厚木市)、埼玉(川口市2拠点)、千葉(千葉市)に計7つの物流センターを設置。定温輸送車98台、2トン平ボディ160台の車両を揃え、正社員ドライバー211名による配送体制を構築している。

今後の展望について清水氏が強調したのは、酒類以外の取り込み。新型コロナウイルスの感染拡大が同社事業を大きく変える契機になったという。

「飲食店が休業に追い込まれ、酒類の需要は一時期70%減少し、当社もセンターの廃止を余儀なくされた」と清水氏。存続すら危ぶまれた中、酒類以外の多角化事業に活路を見出した結果、木材、建築資材、倉庫作業請負などへ関係を拡大していく。「酒類の需要は、飲食スタイルの変容によりコロナ前の8割までが限界と言われており、更に減少が予想される。酒類以外に成長を見据える一方、肉体的負荷の高い飲食配送が難しくなる中高年ドライバーに対して、雇用維持に寄与すると考えている」と説明。共同配送システムの横展開に意欲を示し、講演を締めくくった。

現状は自社配送の堅持に注力

具現化こそしていないが、塗料配送の同業連携については以前から話題に上っているところもあり、酒販業の共同配送の現状を語った清水氏の話は、参加者の関心を呼んだ。

講演を終え、参加者から聞かれたのは「都市では実施できても地方では難しい」「容量や色など多種多様な塗料を共同配送でカバーできるか」「日々の配送が顧客との関係強化に寄与している」など、難しさを指摘する意見が目立った。ただ、「連携ではなく、1社先頭を切る会社があれば実現できるかもしれない」との意見もあり、地域や事業規模による違いが見られた。

今回の講演に先立ち、青年部は会員各社に対し、共同配送に対する感度を探るべくアンケートを実施した。回答企業60社。
配送スタイル(複数回答)について「自社ドライバーのみ」と回答したのは48社。続いて「メーカー直送便」32社、「自社・委託ドライバー」11社となった。

また自社及び委託ドライバーの充足については、「足りている」が46社と8割弱を占めた。工業用、汎用の属性は不明だが、自社配送を基盤にした人材確保に注力する姿勢が改めて浮き彫りになった。

2024年の物流問題に対する取り組みを尋ねる記述設問でも「できる限り自社配送にシフトしている」「自社の配送スタッフを増員している」「土曜日の休業を拡大した」など配送人材の確保や待遇改善に関する回答が多く見られた。
「塗料業界で共同配送は可能か」の設問では、可能と不可能が二分し、今後に検討の余地を残した。



全国から31名が参加.JPG
全国から31名が参加.JPG
開会あいさつする森会長.JPG
開会あいさつする森会長.JPG
フィット・清水氏.JPG
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