人型ロボットを搭載、鉄道重機を開発
システムチェンジに挑む

人型ロボットが街の傷んだ場所を直していく。そんな漫画のような世界が現実になろうとしている。このほどJR西日本は、鉄道設備のメンテナンス向けに多機能鉄道重機を開発。鉄道メンテナンスに関わる労働者不足をロボットで補う構えだ。中でも塗装は、メイン用途として活躍が期待されており、完成度を高めるため、現在も塗料・塗装関係者を交えた開発が進められている。

 


西日本旅客鉄道(以下JR西日本)が今年7月から鉄道設備メンテナンスに多機能鉄道重機の使用を開始すると公表したのは6月下旬。人の形をした大型ロボットの開発に多くのメディアが取り上げ、話題を集めた。

多機能鉄道重機が対象とするのは、ビームと呼ばれる鉄道架線を支える鋼製支持物のメンテナンス。両端の支柱管から梁のように線路を跨って設置されている鋼構造物で錆補修のため10年に1度の頻度で塗り替えされている。

ただビーム塗装は、形状によって細い鋼材が入り組んでおり、12mの高所で安全性を確保しつつ、塗装しなければならない。更に1日の作業時間も終電から始発までの数時間と、過酷な環境で高度な塗装技術を要する。

そこで浮上したのが、メンテナンスの機械化。「労働人口が減少する中で、人に頼り続けるわけにはいかない」(同社鉄道本部電気部電気技術室システムチェンジ課長・梅田善和氏)とロボット開発に活路を求めた。

当初は、自走式ロボットや屈伸ロボットを活用したプログラミング制御によるロボット開発も視野に入れたが「ビームは幅や形状、位置など1本ごとにすべて異なるため、プログラミングによる制御を断念した」と説明。以降、人の操作でロボットを制御する協働ロボットの開発に照準を据え、多機能鉄道重機を完成させた。

専用塗料開発、塗装治具は開発を継続

今回多機能鉄道重機の開発に参画したのは、JR西日本、人機一体、日本信号の3社。ロボットの力制御で高い技術を持つ人機一体と鉄道システム分野等で高い製品化技術を持つ日本信号と協業し2020年に開発がスタート。

特徴は、アーム先端のツールを変えることで重量物の把持(両腕で最大40kg)や木の伐採、塗装など複数の作業を可能にした点。鉄道工事車両に積載可能なサイズにし、最大12mの高所作業に対応する。

特に重視したのは、人の細かな動きを正確に反映するセンシング技術を活用したインタラクティブ(双方向)性。ロボットの操作は2本の操縦桿。アームを7軸にし、腕、肘、手首、脇の開け閉めに至る動きに対応。位置に関しては、操縦者のヘッドマウントディスプレイとロボット頭部に装着したカメラが連動し、わずかな首の傾きも反映する直感的な操作性を重視した。

一方、先端ツールに装着する塗装治具は、エアーコンプレッサで塗料の吐出を制御し、ダイヤフラムポンプで塗料を供給する圧送塗装方式を採用。システム構成が簡易な点や刷毛塗りが適用できる点が決め手となった。刷毛の材質は水性塗料を想定しナイロンを選択し、手の甲ほどのサイズの刷毛を2本並べた専用塗装治具を開発した。塗料の供給・停止は、操縦者がボタン操作する。また塗料は、特殊繊維強化型水性塗料「アミコート」を展開するまつえペイントが開発。環境、作業効率の観点から1回塗り仕上げが可能な高膜厚タイプの水性高耐候性塗料を求めた同社の要請に、錆転換剤を配合した高耐候性水性錆止め塗料を開発。錆ケレン、下塗り不要の塗装仕様を実現した。乾燥膜厚は従来仕様(3回塗り)の約2倍となる180μm。割れを防ぐため弾性機能も持たせた。

従来工法との比較について「作業スピードは人の方が少し早い」としつつ「1本のビームに要する人員を5人から3人(操縦者含む)に減らせる」と省人化を実現し、今後の運用に弾みをつけている。ただ同社としては今後も効率向上、用途拡充に向け開発を継続する方針。刷毛2本並べた塗装治具も試行錯誤を経た結果だが、入隅、出隅の多い複雑形状のビームに適した塗装治具や塗装方法の追求を続けている。

こうした現場目線の開発をバックアップするのが、塗料・塗装の専門家。「塗料の高膜厚化のアイデアもしかり。我々では気づかない点を指摘してくれる貴重な存在」と梅田氏。塗装治具の開発に際し、塗装会社の鉄電塗装、刷毛メーカーの好川産業、塗料ディーラーのサンリード近畿フジペック事業所が開発に参画している。 

梅田氏は「事故を減らす上で成し遂げなければならない開発と捉えている」と"システムチェンジ"に意欲を示した。(写真提供:JR西日本)



大迫力の多機能鉄道重機.JPG
大迫力の多機能鉄道重機.JPG
12mの高所作業に対応.jpg
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