ケーススタディ 目標は、地域の住まい守り続ける「永続企業」

「成長よりも永続」。そこに目標を定めた企業がある。大阪府高槻市に本社を構えるSAKURA(旧社名・さくらペイント)だ。永続することに目標を定めた理由は、「住まいのトータルパートナーとして、この街の住まいを守り続けていく責任があるから」(本田卓也社長=写真)。"地域に根付き、地域に愛される、日本一の幸せ創造企業を目指す"との理念はぶれることがない。

 


SAKURAは今年、会社設立20周年を迎えた。2001年に本田社長が塗装業を起こし、2004年に法人化。そこから20年、「ずっと走り続けてきたのであっという間だった」と振り返る。

同社の飛躍のきっかけとなったのは、2008年に建設した自社ビルのオープンだ。市内の幹線道路が交わる絶好のロケーションに土地を取得でき、自社ビルを建設。投資額は、「当時の事業規模からすると身の丈を超えていた」が、「多くの人が行き交うこの場所に目にとまる社屋を建てれば、地域での認知度が一気に高まる」と決断、その狙いが当たった。

住宅塗り替え専門店として集客のためにまき続けていたチラシの中の「さくらペイント」(当時)と、その会社の実体がこの社屋建設によって地域の人たちの中でつながった。認知度だけでなく信用度も高まり、受注件数が急上昇、地域一番店に駆け上がった。

同社の事業規模は現在約13億円/年。このうち、自社元請けによる住宅の塗り替え工事が7割。その他の3割はOB客のリフォーム工事と、「住まいのトータルパートナーになる上で必要だった」という住宅の新築事業だ。

住宅塗装店がリフォームに進出するケースはよくあるが、住宅の新築まで手掛ける会社は珍しい。その理由は、「地域の住まいを守る存在でなければならない」との強い使命感にある。

「塗装事業を展開する中で、『建てて1年もしないのに雨漏りした』と当社に駆け込んでくるお客様が多く、ずさんな住宅建築がまだまだ多いことを実感していた。そうしたトラブルから地域の人たちを守る使命がある」と新築事業に進出。自身、建築士と宅建士の資格を取り、施工体制を構築して本格的に事業を展開。年間12~13棟のペースで住宅を建て、既に70棟ほどの販売実績がある。

塗装、リフォーム、そして住宅の建築まで、「住まいに関わることならSAKURAに任せれば大丈夫という存在になる」ことが目標。地域から必要とされている限り、企業はそこに在り続ける。逆に、地域を守り続けていくためにも、自社がそこに在り続けなければならない。地域における「住まいのトータルパートナー」に自社を位置付けた本田卓也社長の信念だ。

自社が地域から頼りにされていることを実感するエピソードがあった。2018年に起こった大阪府北部地震と、続いて発生した台風21号による住宅被害の復旧の要請だ。地元の高槻市と隣接する枚方市、茨木市などから1,000件以上もの電話が寄せられた。地域の建設関連業者の中では断トツの多さで、「連日鳴り止まない電話に、地域の人たちから頼りにされていることを肌で感じ、何としても応えなければならない」との思いを強くした。

このとき、ある日の朝礼で一人の女子社員が泣き出したという。被災した家を早く回ってあげたいけれど、自社のキャパもいっぱいで回り切れない歯がゆさに涙を流した。

本田社長はこれを見たとき、「地域のために、会社の器をもっと大きくしなければ」と痛感。人員が増えて手狭になっていた社屋から、「社員が伸び伸びと働けて、もっと多くのお客様に来ていただける器にする」ため社屋を移転して拡大。市の中心地に新本社ビルの「高槻センタープラザ」を構え、地域に近しい存在感を一層強めた。

同社は一昨年、高槻市に隣接した大阪府枚方市に住宅塗り替え専門店の新店舗「枚方・くずはプラザ」をオープン。高槻市以外での初の出店だ。続いて今年7月、やはり隣接の茨木市に「茨木プラザ」をオープンした。

「以前からそれらのエリアのお客様にも多くのお問い合わせをいただいていたので、多店舗展開というよりも地域のニーズにお応えするための出店。高槻、枚方、茨木、そして吹田市を含めたこのエリア一帯を商圏と捉えているので、その中での密度を高め、より多くのお客様のご要望にお応えしていく展開」と説明する。 

その住宅塗り替え市場について本田社長は、「人口減少の局面に入り、客層の変化や高耐久建材の普及など、住宅の塗り替え需要はこれまでのように出てこなくなると思う。市場占有率の高い高槻市ではその傾向が見えてきたことから隣接するエリアに出店を始めたが、それは成長を追い求めることが目的ではなく、地域の住まいを守る使命感がやはり動機の部分。密度を高めてより良いサービスを提供するといった意味合いでは、地域内での出店は今後も有りうる」と言及する。

"地域に根付き、地域に愛される、日本一の幸せ創造企業を目指す"との理念は、地域にコミットした職場や働き方が社員の多幸感を高めるとの実感によるものだ。「今回のコロナ禍のように、長い年月の間には何が起こるか分からない。成長を目指して盲目的に進むよりも、その時々の環境の変化に適応してしなやかに生き延び、地域の人たちの住まいや暮らしを守り続けていく。それが、当社の社員と共有している強い信念」と言い切る。



SAKURA 本田卓也社長.JPG
SAKURA 本田卓也社長.JPG
本社ビルの「高槻センタープラザ」.jpg
本社ビルの「高槻センタープラザ」.jpg

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