鉱脈発見、設計事務所に直接営業でピンチ脱出

コロナ禍で受けた「致命的な打撃」を、「設計事務所への直接営業」という窮余の策でしのいだ塗装会社の光トラスト(中村隼人社長=写真)。施工会社が設計事務所に営業をかける際の要所をつかみ、改修案件を引き出すことに成功、事業を立て直した。そして、コロナ禍で頓挫しかけた住宅塗装事業の構築に向けて再び動き出す。「修羅場を潜り抜けてきた実力」が強みだ。



中村隼人社長の経歴はユニークだ。まず、防水会社の職人として建設業界でのキャリアをスタート。学校の改修工事など比較的大きな現場で経験を積み、次に就いたのが現場監督の仕事。「職人のときは、ただ言われたことをやっていればよかった」が、現場監督は勝手が違う。「材料や工程ごとの詳細な知識、人の動かし方、さまざまな職種の調整など現場を左右する責任ある仕事。ここで磨かれたスキルが、その後の事業に役立った」と振り返る。

現場監督の仕事に長く携わった後、思い切った転身を図る。住宅塗装の訪販会社の営業マンだ。「勇気を出してその世界に飛び込んでみると、自分でも意外と仕事が取れた」と自身の新たな能力を発見。そこで1年ほど経験を積んだ後に独立、2017年に住宅塗り替え会社の光トラストを起こした。

前職と同じく訪販スタイルで事業を開始。当初3人で始めた事業も順調に回り出し、営業マンを10名以上増員、「さあ、これから」というときに強烈な逆風が同社を襲った。コロナ禍だ。

「インターホンも鳴らせず、人との接触ができないコロナ禍は訪販営業には致命的。全く身動きが取れなかった」と窮地に立たされた。「売上がほぼゼロの状況が半年ほど続いた」が、そこで光明を見出す。「設計事務所への営業」というアプローチだ。

「当時、光触媒コーティング剤メーカーのピアレックス・テクノロジーズさんと取引があり、同社の廣瀬社長から『設計事務所に営業をしてみては』というアドバイスをいただいたのがきっかけ。打ち放しコンクリートの再現塗装で設計営業が奏功していたピアレックスさんを参考に、自分でも挑戦。それが当たりました」とピンチを救う。

自社製品の設計折込みなどメーカーの設計営業は一般的だが、製品や工法を持たない施工会社が設計事務所に営業をかけるのは珍しい。

「以前の現場監督の仕事で大規模改修も経験していたので、そこなら勝負できると思い動き始めました。とはいえ、設計事務所の多くは新築がメインなので改修案件を抱えている事務所にはなかなか出会えない。なので、とにかく数を回って1件、2件と辿り着いていきました」と足で稼いだ。

ここで取った手法は"相見積り戦法"。改修案件のある設計事務所に対し、ゼネコンなどから取った見積書と同じ仕様で見積りを出させてもらう手法だ。間にゼネコンを挟まない分、当然低い金額を提示でき、設計事務所にもその先の発注者にもメリットがある。

そうして獲得できた物件で、中村社長が重視するのは「設計の先生とのコミュニケーション」だ。設計事務所と施工店が直接つながらないのは、管理や職人への指示など手間がかかることに加え、「業者の都合のいいように工事を進められるのではないかという疑心暗鬼があるからだと思う」と指摘。 

その擦れ違いをなくすには、「毎日の報連相はもちろん、設計の先生が腑に落ちるよう、とにかく分かりやすい説明に努めることが大事」と中村社長。

良質なコミュニケーションによって設計事務所との関係を築くことで、「一度使っていただければ必ずリピートにつながる。設計の先生も自身で設計したOB案件をいくつも持っており、施工業者と直接つながって良質でリーズナブルな改修工事が提供できることが分かれば、そこへのモチベーションも高まる」と説明。デザイナーズマンションやクリニック、美術館など「アトリエ系の設計事務所が得意な中規模程度の改修案件」を数多く引き出すことに成功、軌道に乗せることができた。

こうしてコロナ禍からの窮地を脱し、事業基盤が整ってきたところで住宅塗装事業の再構築に乗り出した。「1つの事業に偏る怖さを身をもって体験したので、設計事務所の案件と住宅の塗り替え事業を半々くらいの割合にしたい」と住宅塗装事業に再注力。

今回は、以前までの訪販スタイルから180度転換し、来店型の住宅塗り替え専門店とした。「時代的にも訪販への風当たりが強くなっているし、お客様に店舗に来ていただいた方が提供できる情報量が圧倒的に増える」との考えから、来店型スタイルをとった。

出店したエリアは、東京・世田谷区。今年9月7日に、外壁・屋根塗装専門店の「外壁堂」をオープンした。「人口が多く、エリアも広い割には、世田谷区には来店型の競合がほぼいない」ことに加え、富裕層が多く、自宅のメンテナンスに対する意識が高いエリアでもあるからだと言う。

9月7・8日に開いたオープンイベントでは30件以上の見積依頼が寄せられる上々の滑り出し。「他社の見積書を持って相談に来られた方もおり、来店型ならではの手応えもありました。そこに店があり、いつでも相談にいける安心感を強みにしていきたい」意向だ。

現場監督としてさまざまな工事を担ってきた自身のスキルと、設計事務所と直接つながってデザイナーズマンションや美術館などの改修実績を多く持つのも自社ならではの強みと認識。「実力本位の住宅塗り替え専門店としてブランディングできれば、勝算は十分ある」と自信をのぞかせる。

ペイント&コーティングジャーナル2024年10月20日付「建築塗料・塗装特集(秋)」より



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