塗膜形成技術で航空機の燃費削減に寄与

塗料商社のオーウエルは塗膜形成技術で航空機の燃費削減に寄与する。2月28日、JALメンテナンスセンター(東京・羽田空港)で、日本航空(JAL)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、オーウエル、ニコンが、航空機へのリブレット施工技術に関する報告会を開催した。リブレット形状(微細な溝構造)を施すことで燃費改善によるCO2排出量削減を目指し実証試験を行っており、JALエンジニアリング・執行役員技術部長の小倉隆二氏は「社会実装に近づいた」と手応えをつかむ。


JALは2050年にCO2排出実質ゼロを目指しており、そのアプローチとして、航空機の省燃費機材への更新で50%、植物由来など持続可能な代替航空燃料(SAF)の活用で45%、更に高度や速度の最適化など運航の工夫で5%の削減に取り組んでいる。

その中で実現に向けて「加速させる小さくても光る技術を探していた」(小倉氏)ところ、これまでもプロジェクトで協業していたJAXAからリブレットに関する技術提案を受けた。JALが進めるESG戦略にも合致することから、2018年より協業がスタート。

リブレットとは、サメ肌形状によって水の抵抗が軽減されることにヒントを得て考案された微細な溝構造のこと。航空機の機体表面にリブレット形状を施し機体表面の渦流れを制御することで摩擦抵抗を低減できる。その結果、燃費が改善しCO2排出量の削減に寄与する。

そこで重要な役割を担うのがオーウエルの塗膜形成技術だ。同社では「生産財商社でありながらお客様のものづくりの工程に幅広く価値提供する」(取締役営業推進部担当・冠一基氏)をモットーとしており、約10年前からJAXAとともにリブレット技術に関する技術開発を進めていた。

同社によると、これまではデカールやフィルムにリブレット加工を施して機体に装着する技術はあったものの、塗膜に直接リブレット形状を施工するのは世界で初めてという。

オーウエルの塗膜形成部技術開発グループリーダーの橋谷田晃氏は「特長は2つあります。航空機で実績のある塗料をリブレット化することで、航空機に求められる塗膜性能を担保するリブレットを形成できること。2つ目は、水溶性モールドを使用することで、精度の高い微細形状を形成できること。リブレット形状の高さ50μmに対し±5%、つまり1000分の5ミリの誤差範囲で形状成型が可能」と説明する。

工程は、最初にリブレット形状を施した水溶性モールドに航空機用塗料を塗工しフィルム化する。次に既存塗膜の上にリブレットフィルムを貼り圧着することで機体上にリブレット形状塗膜を付与する。最後、塗膜が完全に硬化した後、水洗いすることで水溶性モールドを除去して、リブレット形状を機体表面に露出させる。

金型の役割を担う水溶性モールドは塗料には溶解せず、水には簡単に溶解する構造。形成されたリブレット形状にストレスを与えることなくモールドのみを取り除くことができる。

また、JALではオーウエルとは別にニコンの技術によるリブレット形状の施工を行っている。ニコンでは事前に膜厚を増した塗膜上にレーザーを用いて直接凹凸を形成する。

JALはオーウエル及びニコンが有する加工技術を用いて、ボーイング737-800型機1機ずつ、計2機の機体の胴体下部に局所的にリブレットを施工し、形状を定期的に測定する耐久性飛行試験を実施。今般、オーウエルの施工機体で1,500時間、ニコンの施工機体で750時間を超える飛行時間が経過し、「いずれも十分な耐久性を有することが確認された」(小倉氏)。

現状は局所的な小さな面積の施工だが、当然ながら施工面積が大きければ大きな効果が得られる。JAXAの数値計算によると、機体の大部分に施工し長距離に運航した場合、燃費改善効果2%が見込める。2%というのは、羽田―ロンドンを片道飛んだ時にCO2排出量7トン削減が算出される。

今後、早い段階で大面積への施工のための最適な方法を確立させる。JALでは「(飛行実証試験の結果を受け)社会実装に近づいた。2023年度に国内線機材に採用し更なる耐久性を検証し、大型機で飛ばすことで大きな効果が得られる国際線に展開していく。評価し一定のめどがついたら2025年度には増機していく」(小倉氏)。



左からJAL・小倉隆二氏、JAXA・伊藤健氏、オーウエル・冠一基氏、ニコン・道正智則氏
左からJAL・小倉隆二氏、JAXA・伊藤健氏、オーウエル・冠一基氏、ニコン・道正智則氏
リブレットの形成手法
リブレットの形成手法

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