銀微粒子を活用、新鏡面塗装開発
金属調意匠とミリ波透過を両立

樹脂パーツの成型加工・塗装を手掛けるイクヨ(本社・神奈川県厚木市、社長・神尾裕司氏)は、オーウエル(本社・大阪府大阪市、社長・飛戸克治氏)と共同で、銀ナノ粒子を活用した新鏡面塗装技術を開発した。樹脂部品に対してインジウム蒸着品並みの光沢感が得られるとともに、ミリ波レーダーの透過性を確認。樹脂部品のデザイン性を拡張する契機になるとして、自動車メーカーをはじめ提案活動を本格化する。


今回、両社が開発したのは、銀ナノ粒子を活用した銀微粒子分散液。反応と還元によって銀皮膜を形成する銀鏡塗装と異なり、20~30nmの銀微粒子を溶媒で分散し、塗装仕上げを可能にしたのが特徴。光沢感においては、L値(明度)71.7を保持し、インジウム蒸着品やメッキ品同等の光沢感を実現したところに画期性がある。 

昨年10月に両社の共同特許(特許第6782386号)が成立し、ミリ波レーダーを透過する"新鏡面塗装"と銘打ち市場にアピールしていく考えだ。

用途としてまず見据えるのは、ポリカーボネート(PC)基材に金属調の外観を施す車のエンブレム部材。

積層構成としては、PC基材の裏面にアンダーコート、銀微粒子分散液、ガードコートを塗布し、PCの表面側にハードコートを塗布するというすべて塗装工程によるもの。銀微粒子自体の膜厚は約50nmを適性膜厚としている。

銀微粒子分散液はエアスプレー塗装に適応し、カラーバリエーションを増やすことが可能で、かつ銀微粒子分散液とガードコートとのウェットオンウェット塗装も検討している。

意匠性の向上と工程短縮によるコスト削減効果を"新鏡面塗装"最大のメリットとしつつ、塗膜物性も密着性(碁盤目試験)、耐熱性(80℃、500時間)、冷熱サイクル(80℃・-40℃、10サイクル)、耐候性(キセノン60W・雨あり2,000時間、ΔE3以下)の各種試験をクリアした。

ミリ波レーダーの透過性を発見

開発当初は、金属調の光沢感が得られる意匠性の高さとコスト削減効果を武器に市場展開を行う考えだったが、新鏡面塗装がミリ波レーダーの透過性を保持していたことが局面を大きく変えた。

オーウエル塗膜形成部の川村知宏氏は「もしかしたらと試験に出したところ、新鏡面塗装(銀・金)にミリ波レーダーの透過性を有していることが分かった」とコメント。これまで限られた物質でしかミリ波を透過できないと考えられていたところでの今回の発見は、市場展開に対する両社のモチベーションを勢いづける契機となった。

ミリ波レーダーは、衝突防止や接触防止、車線はみ出し防止、速度コントロールなど車の自動運転システムに採用されているセンシング技術の一種として知られる。

現在、形状認識能力や距離認識のレンジ、精度によってLIDAR、単眼(複眼)カメラ、ステレオカメラが採用され、ミリ波レーダーは一般的に形状認識を不得意としながら、レンジが長い距離を高精度で認識する技術を得意とする。

自動車に搭載されるこれらセンシング技術の種類や設置場所、設置点数などにおいては、カーメーカーそれぞれに違いがあるものの、主要自動車メーカーは、今後の自動運転開発においてもミリ波レーダーの重要性を表明しており、「今後もミリ波レーダーの市場が拡大していくものと確信している」と説明。金属調意匠とミリ波透過を両立する新鏡面塗装の市場性に期待感を高めている。

更に今回開発した技術は、金属調の外観意匠を問わなければ、銀、金以外の金属微粒子でも同様の特性が得られるという。

一方、市場展開に備えて、性能要件であるミリ波の減衰率についても既に検証を済ませている。

ミリ波の周波数帯域18GHz~90GHzで計測したところ、減衰率がすべて2dB以下に収まっていることを確認。一方で金属調光沢の目安であるL値70以上を実現しており、両社は、これらデータ類の整備と量産対応を想定した塗装技術への落とし込みを確立した上で、自動車メーカーなど最終ユーザーに訴求していく意向を示す。

それでも現在のところ、自動車のエンブレムは、金属調光沢とミリ波レーダーの透過を両立した技術としてインジウム蒸着が主流を占める。それに対し、オーウエル事業企画部の羽二生康氏は「蒸着設備を必要とし、希少性金属を使ったインジウム蒸着は、コストと歩留まりに課題を抱えている。塗装設備以外の設備導入を不要とし、カラーバリエーションを付与できる新鏡面塗装は、デザイン性、コストを鑑みても実用性が高いと考えている」と説明する。

将来的には、エンブレム以外のパーツや自動車以外の用途展開も視野に入れていく考えを示す。



新鏡面塗装のテストピース。オーウエル技術センターで塗装
新鏡面塗装のテストピース。オーウエル技術センターで塗装

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