世界標準に挑むスモールショップ

地域の人たちがふらりと立ち寄り、インテリアの模様替えに使う塗料を買い求めていく。店内のカラーカードで色を選び、その場で調色してもらって持ち帰る世界標準のペイントショップスタイル。「パン屋さんや八百屋さんと同じように、地域の人たちの日常に溶け込んだペイントショップ」を目指す鎌倉市のPaint & Color Plaza。10坪に満たないスモールショップが始めている大きな挑戦。

建築用を中心とした塗料ディーラー・荻野塗料（本社・神奈川県藤沢市、荻野宏之社長）が鎌倉市に構えているペイントショップ「Paint & Color Plaza」。それまでの業販から一般消費者を対象とした店に衣替えしたのは今から14～15年前のことだ。「少子高齢化による後継者難でユーザーの数が減少していた中、先代がアメリカのペイントショップの視察で刺激を受けB to Cの方向を打ち出したことがきっかけ」（荻野宏之社長）と振り返る。

しかし、「今ほどDIYの風潮もなく、地域の人たちの認知も圧倒的に低い」中で一般消費者対象のビジネスは苦戦を強いられた。

転機の1つになったのは、「7～8年前にアトムサポートさんが持ちかけてきたペイント教室の開催。新聞折り込みで告知したところ100人の応募があり、反響の大きさに驚くと同時にDIY塗装の潜在需要を実感しました。認知度の向上にはやはりイベントが有効であることが分かり、以来、独自にペイント教室を継続して開催しています」と取り組みを説明する。

室内の壁の塗装や小物の塗装、黒板ペイントや塗料を使用したオーナメントづくりなど多彩なペイント教室を、いずれも1,500円～2,000円の有償で月に3～4回の頻度で継続して開催。「小さなお店ですから1回2～3人程度の規模ですが、実際にご自宅でDIYペインティングをされるなど目的があって来られますので、詳しくレクチャーするためにも人数を絞り込んでペイント教室を開いています」と荻野社長。

ペイント教室を地道に続けてきたことでその存在は口コミで地域に伝え広がり、やがて目的買いの客やリピーターを生み出す「B to Cビジネスの基礎」を形づくっていった。ペイント教室の継続開催が一般の需要層を生み出すトリガーになっている。

暮らしに近いペイントショップ

「Paint & Color Plaza」は延床で10坪に満たないスモールショップ。女性の社員2人とパートの3名でオペレーションしている。現在の来店者数はひと月に300人前後。「一般のお客様とプロ（業者）のお客様との割合は4対1程度。最終的には100％一般のお客様対象のショップにし、本当の意味で地域に根ざしたショップにしたい」というのが荻野社長の構想だ。

同店に来た客は店頭の300色のカラーカードの中から目的の色を選び、その場でスタッフに調色をしてもらって持ち帰る、まさにアメリカンスタイルのペイントショップ。カラーカードにない色の相談や色の選定を手伝ってほしいとの要望も多く、「デザイン関係の学校で色彩の勉強をしていたので、そのスキルが生かせてとてもやりがいを感じています」とスタッフの加茂詩織さん。ペイントの販売という仕事に面白みを感じている。

「鎌倉という地域は、ライフスタイルにこだわりを持っている層が多い」と荻野社長。「着るものや食べるもの、住空間、そして趣味や遊び、OFFの時間など、その人なりの暮らしの質を大切にする傾向がとても強い。そして、そこに欠けていたピースが実はペイントではないかと考えています。ペイントはとりわけ住空間を劇的に変える力があります。その面白さにビビッドに反応するのも暮らしの質を重視するこの地域の人たちではないかと思うのです。だからこそ認知度をもっと高め、ライフスタイルを一緒につくり上げていくペイントショップになりたい。パン屋さんや八百屋さんと同じように、地域の人たちの暮らしに近いペイントショップになること、それが目標です」とビジョンは固まっている。

鎌倉は貸し店舗が多く、若いオーナーが飲食や雑貨などの店を開業するケースが多い。「当店でペイントを購入してDIYで内装を塗装しているオーナーさんがとても多い」ことから、そうしたファン層とコラボレーションするなどペイントの楽しさや魅力を地域コミュニティーに更に広めていく計画だ。

広さ10坪に満たない路面店、運営は女性店員3名。多くの塗料販売店が少し手を伸ばせば実現できない形態ではない。そして、地域にフレンドリーなこのようなペイントショップが日本全国に増えれば、内装を始め塗料のB to C需要は間違いなく興る。