"つくる楽しさ"伝える発信基地

大阪の下町・生野区。昔ながらの長屋が連なる一角に、昨年秋、ユニークなショップがオープンした。実際にリノベーションした長屋を公開しながら、DIY商材のEコマース、DIYリノベーションの提案、DIYワークショップ活動など物づくりの楽しさを伝える「ながやR」。地域活性化のハブとしても注目が高まっている。


玄関の引き戸を開けて1歩足を踏み入れると、懐かしさがこみ上げてくる空間が広がっている。

ノコギリ、レンチ、ドライバー、バイス、スケール...昭和の時代に活躍していた物づくりの道具や工具、金物、古材などが所狭しと並んでいる。「イサムのカテイペン鉄部用」や「アトムハウスペイント水性ニス」「ロック木工用ニス」「アサヒペン色のタネ」など、やはり昭和の頃に売られていた塗料も数多く陳列。業界人にとっても興味が尽きない空間になっている。

「ながやR」の船長(店長の意)・小笠原親秀氏(写真)が全国の金物店や塗料店などから、倉庫で眠っていた品々を買い付けてきたものだ。「効率性や合理性を追求した現代の道具や工具に比べて、昔のものは無駄にデザインに凝っていたりパッケージや販促グッズにもお金を掛けていたりして、それがすごくカッコいい。道具や工具の進化の過程というか物語性みたいなものを伝えることで物づくりがもっと魅力的になるのではないかと思いました」とコレクトしてきた理由を語る。

「ながやR」は、物づくりを基点としたライフスタイル提案ショップとして昨年の秋にオープン。店のキャッチフレーズである「つくるを楽しく」するDIY材料や道具を厳選して販売するEコマース事業とDIYリノベーションの提案、DIYワークショップの開催を主軸に展開。いずれも「古き良きモノ」と「今の良きモノ」を融合させることで生じる「人の心に響く」物づくりを形づくろうとしている。

なんといってもショップそのものが「ながやR」がやりたいことを体現する。

ショップを構えるに当たって、築60年以上の長屋の一軒を借り、小笠原氏がDIYでリノベーションした。天井や間仕切り壁を取り払って広い店舗スペースを確保。現しになった昔の建築の古い梁や柱と新たに組んだシンプルな壁や床がマッチ。トイレのドアは一見、古びたスクラップウッドのように思えるが実はマスキングテープ「mt」の新製品を貼っており、それが回りの雰囲気に絶妙にフィット。古さと新しさが融合することで、どこか懐かしくそれでいてスタイリッシュなオリジナリティ溢れる空間を形作っている。

2階は小笠原氏の住居スペースでここも全体をリノベーション。木製パレットを再利用して作ったテーブル、単管パイプで組んだバーコーナー、トタンを貼った壁、エイジング塗装を施した建具などなど、やはり懐かしさとカッコ良さが融合した個性的な空間が広がっている。

自分たちが住みたい空間を自分たちで造っていくためのリノベーション、リバース、リバイバル、リユースの4つのR。「ながやR」全体で4つのRの魅力を発信している。

地域を元気に

「ながやR」が立地しているのは大阪市生野区。昔ながらの長屋が連なり、路地がまだ残っている、どこか懐かしいエリアだ。「ここの雰囲気が気に入って」大阪府の南部から移り住んだという小笠原氏。「ご近所限定」で家の不具合の修繕をしたり、子供たちに道具や工具の使い方を教えたり、オープンして間がないにも関わらずすっかり地域に溶け込んでいる。

小笠原氏は「つくるを楽しく」を通じて「地域コミュニティを元気にしたい」と考えている。「ながやR」がある生野区は大阪市の中でも最も製造業が多いエリア。ただしその6割以上は従業員3人以下の生業規模で、後継者問題など廃業も増えている。

それら個々の製造業が持っている固有の技と小笠原氏のアイデアを融合させて「魅力のある新たなプロダクトをつくる」ことも地域活性化へ向けた1つの取り組み。例えば、ランドセルの下請工場で余った牛革の端材を利用した「革タイル」。捨てられるだけの端材を新たなインテリア商材としてリユース、リバイバルさせた好例だ。

こうした取り組みに行政も注目。生野区からもさまざまな相談事や案件が寄せられるようになっており、存在感も高まってきた。



小笠原親秀氏
小笠原親秀氏
小笠原親秀氏
小笠原親秀氏
長屋の内部をDIYリノベーション
長屋の内部をDIYリノベーション
昔懐かしいペイント商品①
昔懐かしいペイント商品①
昔懐かしいペイント商品②
昔懐かしいペイント商品②
昔懐かしいペイント商品③
昔懐かしいペイント商品③

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