変化に適応するため語り合う

6月上旬に開催された通常総会で3代目の会長に就任。地球環境への貢献やデジタルツールの加速など、社会の在り方や経済構造が大きく変わろうとする中、森氏はスローガンに"未来共創(みらいきょうそう)"を掲げた。「同業の経営者同士が腹を割って、相談ごとや悩みを交わし合えるのが青年部の魅力」と森氏。いち早くネット販売に参入し、業界内でも注目を集める同氏が塗料販売業の現状をどう捉え、見据えているのか。話を聞いた。


----まずは"未来共創"をスローガンにした経緯や考えについて聞かせてください。

「自社のことになりますが、昨年から新卒採用に向けてインターンの募集を行っている中で、学生からSDGsの取り組みについて質問を受ける機会が非常に多くなってきました。私も社会的な気運として盛り上がっていることは知っていましたが、福利厚生と同様にSDGsの取り組みが会社選びの基準になっていることを知りました。そのことをきっかけに当社もSDGsの取り組みを始めました」

----時代は変わりましたね。

「興味を持つポイントが変わってきたということでしょうか。確かに私自身も家族で食事に行く際、潰れてほしくないお店を選んだり、気持ちの良い店を選ぶようになっています。もちろんコロナが拍車をかけた面はありますが、社会全体における価値観や行動が変わってきたのかもしれません。おそらく就職活動をする学生もそうした価値観を会社選びに反映させていると思います。いずれは、社会的な取り組みや地域に貢献をしているどうかは、従業員や顧客、施主、企業に選ばれる上で必要な基準になっていくと思います」

----興味深い考え方ですね。

「実際、異業種との競争になる新卒採用をするため、残業時間を大幅に削減しました。恒常的に残業がある会社というだけで人材は来てくれませんからね。社会の流れに対応していくことは、会社の改革にもつながります」

----理解はできても実践に移すのは大変そうです。

「そうですね。まさにスローガンの"未来共創"には、こうした社会的な動きや流れに対して、同じ塗料販売業を担う皆さんと語り合いたいという思いを込めました。塗料販売業として、これから社会にどうお役立ちしていくかは、それぞれの会社が考えていることだと思います。ただ正解があるわけではなく、実践に移すには、大小さまざまな悩みや課題が浮き彫りになります。また自分の会社だけで考えるには、テーマが大きすぎて、まとめるのも容易ではありません。同じテーマや課題について、話し合える青年部の存在は非常に大きいと思っています」

----同業同士であることの難しさもあるような気がしますが。

「青年部の良いところは、自分さえ良ければいいという考えを捨てて、業界の未来や自社の将来像、世の中の変化について語り合えることだと思っています」

----まだコロナ禍にあり、思うような活動ができない状況です。

「今年度も年2回の店舗研究会、秋の研修会を軸に各分科会やチームラボの活動を予定しています。しかし状況によっては工夫が必要になりそうです」

----昨年はオンラインの活用も随分進んだとのことですが。

「コロナのおかげと言ってはなんですが、ちょっと気になることがあればすぐに集まれるのは、オンラインの良いところです。プレーイングマネジャーも多いメンバーの中で、会合のために東京まで行くことが困難な方もたくさんおられます。そうした意味では、デジタル技術の活用でこれまで難しいと思っていたことができる可能性が増えたと思います」

----塗料販売業の未来をどう見ていますか。

「時代の流れに適応し続けられるかどうかでしょうか」

----どういうことですか。

「自動車産業が大きく変わろうとしていること1つ見ても、10年、20年先は大きく変わると見ています。極端に言えば、塗料販売業という形がなくなり、新しい業界ができるかもしれません。そうした時代が来ても適応していくということです」

----それは危機感から来ている考えですか。

「変化をネガティブに捉えているわけではありません。適応することが重要であり、今経営者として変化にネガティブであることは、死活問題だと考えています。これは塗料業界に限らず、全産業、全業界に言えることだと思います」

----塗料販売業の価値も問われています。

「塗料販売業は、在庫と配送、また掛け売り、回収を伴う金融が根幹の機能と言われてきました。ただ既に現状は、運送会社が配送を担い、クレジット会社が金融を担えるようになり、過去とは違っています。ただ重要なのは、それでも塗料をネットで買う人は少なく、販売店で購入している人が圧倒的に多いという現実です。我々が気づいていない機能があるということです」

----価値を顕在化させていくことが重要ということですね。
「そのためにも社会や地域への貢献を目指すSDGsは、販売店にも重要だと思っています。言い換えれば、インターネットで得られない価値を販売店が担っていく視点が必要と考えています。その中で、顧客に良かったと言ってもらえるビジネスをどう描いていくか、青年部で話し合いたいと思っています。話し合わなければ、言語化もできませんからね。我々が自らの価値を語り合い、未来に対して方向性を示すことができれば非常に面白いと思っています」
 ――ありがとうございました。



森一朗氏
森一朗氏

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