"塗装"か"カバー"か、屋根改修を考える

石粒付ジンカリウム鋼板屋根材「ディーズルーフィング」を展開するディートレーディング(本社・東京都)は、数年前から塗装業者に対し、カバー及び葺き替え工事の品目追加を推奨している。施工は、専門業者を斡旋する形態だが、「建物のメンテナンスにおいて顧客と密接に関われる建築業者は、塗装業者の他にない」というのがその理由。塗装を通じて建物全体をくまなく触れる塗装業者が改修市場の主役を担うとの目線がある。屋根材メーカーの視点から高木氏に屋根改修の現状、今後の展望について聞いた。


----住宅の構造や屋根基材の変化とともに塗装の難しさを指摘する現場の声が増えているように感じます。

「そうですね。新築から関わる私どもからしても、こと屋根に関しては、築10年経ったくらいから屋根の棟、壁際など、下地の劣化から何かしらの不具合や部材が飛んでいる状況を確認しています」

----塗装で解決し得ない問題を孕んでいるということですね。

「そうです。塗装前の点検、現場調査(現調)が一層重要になっています」

----なかなか塗装だけでは知り得ない部分です。

「塗装だけだとわざわざ屋根材を剥がして下地を見ることもありませんからね。特に屋根下地の見極めについては、当社も啓蒙が必要だと認識しており、塗装屋さんの現調レベルの向上に向け注力しているところです」

----劣化を見極めるためには、屋根の構造や新築時の納まりを知る必要があるということですね。屋根材も増え、施工の難易度が上がるばかりですね。

「屋根材としては、化粧スレート材の塗装が最も多いのではないでしょうか。メーカーによって差異はありますが、だいたい5~6.5mmの薄型のスレート材。次に多いのが、モニエル瓦や地場の瓦メーカーが生産するセメント瓦だと思います。いずれも注意しなければならないのは、屋根材の表面劣化以上に下地材の腐食や釘が錆びている可能性に留意しなければなりません」

----盲点ですね。

「実際、塗装屋さんを見ても、塗装だけの見積もりに終始し、相見積もりの勝負に挑んでしまっている現状が多々見られます。耐久性を観点とした正しい外装リフォームの提案ができているかどうかは、課題を残しています」

----美観に価値を置くのか、耐久性を担保するものなのか、塗装の価値も問われますね。

「今、親しくお付き合いをさせて頂いている塗装屋さんでも私たちの考えを理解して頂くまでに5、6年要しました。施主様に頼まれれば、どんな状況でも塗らざるを得ませんからね」

----言い換えれば、塗装のリスクが高まっているということでしょうか。

「下地や部材同士の納まりが健全であれば、塗装しても何ら問題ありませんが、塗装によってトラブルを呼ぶケースはあり得ます」

----どういう状況でしょうか。

「例えば、屋根の勾配、屋根材の種類、納まりによって不具合の進行度も異なりますが、屋根の下で水が流れるべき部分に泥やごみが詰まったまま塗装すると、かえって部材の劣化や腐食を早めることになります。現調ですべてのリスクを防げるわけではありませんが、面積を測るだけの現調は、トラブルを招く可能性が高くなります」

----これまでと同じように、不具合が起こった際に対策を施していく考え方でも良いように思いますが。

「ただ地域に住む外装リフォーム会社においては、"暮らしを守る"という目線から施主に対し、不具合を未然に防ぐためのアドバイスやサービスを提供していく意識を高めています」

----工事を提供する価値観からサービスの提供へ意識を変えているということですね。

「20年以上前では、塗装屋さんが雨漏りの原因を探すことはありませんでした。むしろ雨漏りは、工務店の仕事という意識が高かったように思います。結露、配管の不具合、外部からの浸入と、さまざまな要因があるためです。しかし今では、雨漏り対策のノウハウを共有する団体が組織されるなど、雨漏り対策を工事品目に追加する塗装屋さんも増えています」

----専門領域の有無を問わず、建物の不具合に塗装業者が直面している現状を端的に表していますね。貴社も屋根の葺き替え、カバーの工事受注を塗装屋さんに託そうとしています。

「当社も屋根材メーカーとして納まりに対するノウハウや専門工事業者とのパイプは持っています。しかし、新設ならいざ知らず、個人住宅の改修に介在していくネットワークはありません。そこで当社は、施主と強い関係を持つ塗装屋さんとの協業が欠かせないと判断しました。一緒に屋根改修に取り組んでいきたいと考えています」

----立場も考え方も違うと思いますが、難しさはありませんか。

「ある意味、互いに技術を教えるということは、自分の商売を教えることそのものですので、現実は難しさもあります。瓦に漏水があった際、瓦を剥ぐわけですが、その時に問題が起きれば、たちまち責任問題になりますからね。かといって調査だけのために瓦職人を呼ぶには、コストがかかりすぎます。そこで我々としては、実際の工事は専門業者を斡旋するにしても、調査に関しては塗装屋さんに担って頂きたいと考えています」

----塗装屋さんの反応はいかがですか。

「お付き合いさせて頂いている塗装屋さんは、我々の考えを理解して頂いていますが、実践に移すためにはどうしても場数が必要です。判例と現場経験でスキルが高まるものなので、一夕一朝で成し得るものではありません」

----塗装の現調とは、チェックポイントも違いますしね。

「まずはそれぞれの会社で1人、専門家を育て、そこから社内に広げていく方法を提案しています。また一方で、同じ工事であれば、少しでも安いところに依頼したいのが施主心理ですので、スキルを高め続け、見積りも精度を上げていく努力が並行して必要になります」

----技術的な課題をクリアしたとしても塗装屋さんがカバー工法を提案するには、別の障壁もありそうです。

「その通りです。実際、屋根塗装とカバー工法では、工事金額も倍ほど違いますし、そもそも施主は塗装を前提に依頼しています。いくら現調による将来的なリスクを示し、カバー工法を提案しても、相見積もりの業者が塗装で見積もりを出している状況で受注を得るのは容易ではありません。実際、そのようなケースが起こっています」

----ここで"塗らない判断"の難しさが浮上するわけですね。

「他の複数の塗装屋さんが"塗れる"と判断する中で受注を得るのは相当なハードルです。カバー工法を積極化する塗装屋さんでも、2割がカバー工法、8割が塗装といった状況です。誰でも失注するのは嫌ですからね」

----施主が塗装に何を求めているかが重要になりますね。

「施主様が塗装会社に施工を依頼する動機の多くは、外壁にあります。屋根塗装は、足場を架けるきっかけで施工者側から提案されて決めるケースが多く、屋根塗装に対し相対的に関心度が低いのが特徴です。屋根は付帯工事の印象が強いのではないでしょうか」

----それゆえにカバー工法に対する費用も高く感じるわけですね。カバー工法を改修市場で広げる難しさが分かります。

「葺き替え、カバーを含む屋根工事は、雨漏りや災害など屋根材が壊れた場合に発生するのに対し、外壁塗装は劣化する前に施工を依頼されます。これは大きな違いです」

----だから屋根工事業者が改修市場に参入してこないのですね。改修市場における塗装のアドバンテージとも言えますね。

「おそらく日本の住宅の屋根を一番見ているのは、塗装屋さんです。改修市場の拡大に挑む当社にとっては、それだけ塗装屋さんの存在価値が高いということです」

----元気づけられるような、塗装の領域が脅かされるような、複雑な心境です。ただ、屋根基材の変化により、塗装現場においても"塗るリスク"に対する懸念は一層高まっているように思います。

「先ほども申し上げたように釘が錆びたり、下地材が腐食した状態で塗装しても長く持たせることができないので、少なくとも現調によって将来想定されるリスクを施主に伝えるサービスが重要になると思います」

----リスク情報の開示は、リフォーム分野でも広がりそうですね。

「今後は、施工者側に悪徳的な意識がなくても、事前に説明がなかったということでトラブルになる可能性があるということです。塗装する場合においても理想は、今回の塗装で○○年持たせて、次は葺き替えを想定しておいてくださいと伝えるのが良いと思います」

----屋根基材が長持ちすると考えている施主にとっては、ショックも大きいでしょうね。

「そうかもしれません。元々、新築時に屋根材の劣化について説明を受けていない施主様も多いと思います」

塗装から外装リフォームの領域に

----改めて屋根材が腐食するメカニズムについて教えてください。

「最も要因として大きいのは、棟を包んでいる板金下にある下地木材の腐食です。築10年ぐらい経過するとどうしても板金の取り合わせ部分に隙間が生じ、雨水が入ります。きちんと流し落とす構造が取られていれば問題ありませんが、下地材に雨水が浸入し、滞留すると、そこで腐食が進み、下地材を留めていた釘の保持力を失います。結果、下地材の上にあるルーフィングや屋根材が剥がれやすくなります」

----表面から見えない部分だけに難しいですね。

「繰り返しになりますが、だからこそ現場に接する塗装屋さんに現調の方法やリスクについて啓蒙していくことが重要だと考えています」

----もはや塗装の範疇を超えていますね。

「おそらく個人の施主を相手にする住宅メンテナンスは、塗装単体ではなく、外装リフォーム業へ業容を広げざるを得ない時代になると思います。言い換えるなら、"塗り"と、"塗らない"を判断して、状況に適した材料・工法を提供するということです」

----塗装とカバー工法もしくは葺き替えの選択についての判断基準はありますか。

「スレートの構成で言うと、野地合板(木質12mm)、防水ルーフィング、化粧スレート材に、化粧スレート材を留めているメッキ釘及び亜鉛メッキ釘で成り立っているわけですが、釘がきかない状態になっていれば塗装はリスクになると思います」

----では、屋根材自体の耐用年数はどれくらいで考えるのが良いのでしょうか。

「屋根材を供給する我々の立場からすると、化粧スレート葺きの場合、下地からの積層構造から見て30年後には葺き替えした方がいいというのが基本的な考え方です。分かりやすく言うと、釘の耐久性が屋根の耐久性といっても過言ではありません」

----カバー工法の有用性はどこにありますか。

「構造計算を前提とした上で、下地の腐食が一部であれば、それ以上の進捗を止めることができます。工事で表層を剥がすことはありませんが、再度防水ルーフィングを敷きますので、カバー工法で止水機能が高められます。また防水ルーフィングに対してもスレート葺きのように野地板に直貼りして密着させるのではなく、屋根材との間に空気層を設けるので、防水機能はかなり向上します。密着させるとどうしても毛細管現象を呼びますからね。ただカバー工法においてもビスが留まるかどうかの見極めは重要です。本来であれば、葺き替えがベストですが、廃棄コストが高騰している現状からもカバー工法の普及は進むと見ています」

----施工品質を高める上でも屋根改修の見識を高めることが重要ですね。

「まだまだ障壁や抵抗も少なくないですが、良質なリフォーム工事を目指せば目指すほど、当社の屋根材や現調ノウハウに対する関心は高くなると思いますので、塗装屋さんとの協業拡大に期待しています」

----ありがとうございました。



「日本の住宅屋根を一番見ているのが塗装屋さん」と語る高木強社長
「日本の住宅屋根を一番見ているのが塗装屋さん」と語る高木強社長

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