SNSがDIYを牽引

 昨年、コロナ禍における巣ごもり消費によって一気に需要を伸ばしたDIY塗料市場。今年も例年と比べて高い水準にあるものの、一巡感も見られており、コロナ収束後の動向に関心が集まる。そうした状況にDIY通販サイト「DIY FACTORY ONLINE SHOP」を運営する大都の山田岳人社長は、「DIYは伸び代しかない」とコロナが来たる時代へ加速させたとの見方を示す。山田社長に話を聞いた。


----実際、この2年の業績への影響はいかがですか。

「EC単体の昨期(12月期)売上高は前年比34%増の約54億円となりました。今年も現時点まで昨年比15%増で推移しており、今期は60億円を突破する見込みです。ここまで20期連続の増収で来ていますが、2019年度が前年比1ケタ台の伸長だった時と比べると需要環境が大きく変化しています」

----やはり巣ごもり消費の影響ということですか。

「それは明らかですね。自粛に伴う在宅時間の増加が巣ごもり消費としてDIY需要を押し上げました。ただ、そこに至るにはいくつかの要因があったと考えています」

----どういうことですか。

「伸びた要因はいろいろありますが、大きくは社会的要因と政治的な要因に分けられます。社会的要因としては、在宅時間が長くなったことやテレワークの導入で、今まで寝る場所だった家が暮らす場所に変わったことが挙げられます。加えて外食やレジャーの消費が抑えられたことも暮らしに消費が向かっていった大きな要因ですね」

----テレワークをするにも環境を整える必要がありますしね。

「特にテレワークが顕著にしたのは、通勤時間を考える必要がなくなったことです。当社もテレワークの導入により、より家賃が安く、子供を育てやすい環境を求めて数名の社員が引っ越ししました。これは当社に限ったことではなく、同様のことが全国で起こりました。引っ越しすると、家を触る機会が増えますので、それもDIY需要を押し上げた要因と見ています」

----政治的要因というのは。

「これはコロナ以前から進められている空き家対策に端を発した中古住宅の流動化です。賃貸住宅でもDIYを推奨する施策が出されるなど、中古住宅の有効活用が進められています」

----DIYの普及に環境が整ってきたということですね。

「そうです。あと今回DIYを一気に押し上げたトレンドとして見逃せないのは、SNSやアプリの存在があります。今まで見ることができなかった他人の家の中(インテリア)が見られるようになったのは非常に大きいですね。海外でDIYが盛んなのは、人を招く文化があることが大きな要因だと考えています。それに比べて、日本はそもそも人の家の中を見る経験がなく、刺激を得ることもありません。それが今やSNSやアプリを通じて自由に他人の家を見ることができることがDIYを触発しています」

----塗料で目立った変化はありましたか。

「個別のブランドの話になって恐縮ですが、ニッペホームさんの『手で塗れる塗料』が爆発的に売れています。刷毛やコテなどの道具がいらず、蓋を開けて、そのまま塗れる手軽さが受け、当社でも月数百缶のペースで売れ続けています。当社の販売量からも全国レベルで相当数の家の中が塗られていることが分かります。決して安い商品ではないのですが、多くの人が塗装に消費価値を見出しているということです」

----手軽さがヒットの要因だったのでしょうか。

「これもSNSの影響が大きいですね。先ほどの『手で塗れる塗料』についても、塗っている様子や塗った後の様子、また楽しそうな作業風景など、インスタをはじめSNSでどんどん投稿されています。またYouTubeでは、実際に商品を使った一般の方が塗り方などを投稿しており、数十万人が視聴しています。こうした動画が、DIYをやりたくてもやり方が分からなかった人を誘引し、裾野を広げています。YouTubeがさまざまな疑問や不安を解決してくれるからです。そして材料を買うにもネットで注文すれば、翌日には届くわけですからね。使い方も購入もすべてWEBで完結できるようになったことは、DIYの普及を後押ししています」

----コロナを抜きにしてもこうしたDIYの活性化は予見していましたか。

「思った通りになったという感覚はありますが、5年、10年かかるところが1年で一気に進んだというのが実感ですね。以前から暮らしに向き合う社会になると言い続けてきましたが、タイムマシンで時間が縮まったイメージです」    

----暮らしに向き合うというのは、どういうことですか。

「端的に言うと、何が大切か、誰が大切かということを優先するとライフスタイルです。特に若い人にこうした感性が強くありますが、社会全体が幸福度の絶対量を求めていく流れは今後も一層高まっていくと見ています」

----DIYは社会の風潮と大きく関わっているということですね。これからDIYはどのように進んでいくと見ていますか。

「伸び代しかないと見ています。塗装のデータはないのですが、壁紙を自分で貼ったことのある人の比率をパリと比べてみると、パリは60%、日本は5%というデータがあります。とかくこうしたデータは、日本でDIYが普及しない理由に使われてきましたが、見方を変えれば、伸びる余地が十分に残されているということです。既に東京では新築と中古の購入比率が同等程度まで上がってきました。新築を作り続ける住宅施策が限界に来ていることを鑑みてもDIYは成長しかないと見ています」

----ありがとうございました。



山田岳人氏
山田岳人氏

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