インタビュー  "UVが面白い"世界基準の塗装を考える

「UV硬化型塗料(UV塗料)は、非常に将来性がある塗料と見ている」と語るのは、タクボエンジニアリングの佐々木会長。材料メーカーや最終メーカーが同社を訪ね、実用化に向けた検討を進めている。塗料においては、ハードコート用としてニッチな領域にとどめているが、環境負荷の低い速硬化システムとしての応用策に期待が集まる。UV塗料を切り口に塗装の未来像について聞いた。

 


――タクボさんにさまざまな企業が来訪しているということですが、何を求めているのでしょうか。
「武蔵さん(武蔵塗料)と協業しているインジウムミラーコーティングシステムに対する関心も高いですが、それ以外にも化学メーカーや自動車メーカーなどいろいろな方が来られます」
「守秘義務がありますので詳細を話すことはできませんが、とにかく言えるのは、従来の発想を超えたものづくりを追求しています。当然、当社には塗装に関する相談が寄せられるわけですが、材料的には無溶剤UVに関する話題が増えていますね」

――なぜUVなのでしょうか。塗料としては大きい市場ではありません。
「需要家からすると環境負荷が低く、エネルギー使用量も少ないUVは魅力に感じるようです。技術が進んでいる印象があるようです」

――なかなか塗料業界からは見えない景色ですね。
 「こと無溶剤UV塗料においては、粘度が高いことで用途が限定されていました。ただ今は低粘度タイプが開発され、普通の塗料と変わらず塗装できるようになりました。実際、当社にはそうした材料が持ち込まれ、サンプルワークの要望が増えています」

――塗装適性を見定めたいということですね。
「既存の塗装をUVに置き換えたいとのモチベーションは高いですね」

――意匠的な用途でしょうか。それとも機能付与を目的としたものでしょうか。
「どちらかと言えば、機能膜を目指したものが多いですね。UV塗料は柔らかいものから硬いものまで自由にコントロールできるのが特長です。そう考えると潜在需要は多く、我々が知らないところでUVコーティングが多く使われていることが結構あります」

――塗料と異なるということですね。塗料で動きはありますか。
「ないですね。塗料業界で使われているのは、木工やプラスチック、フィルムなどハードコートクリヤーの領域です。着色を必要とするものにUVは適さないとの考えが普及を妨げる一因となっています」

――佐々木会長は以前から金属にも着色にもUV塗料の適応は可能だと訴えています。
 「金属に対しても着色仕上げにおいても、一度何らかのコーティングが施されればそこは樹脂層になるため、上塗りとしてUV塗料の適応は可能というのが私の持論です。つまり、着色できないという理由からUV塗料を除外するのは間違いです。その意味では、もっと塗料メーカーにUVの可能性を追求して頂きたいですね。むしろ今は、樹脂メーカーによる需要開発の動きが活発化しています。樹脂の依存度が高いことも影響しているかもしれません」

――物性に対する懸念はありますか。
「UV塗料の性能は、既に携帯電話で実証されています。頻繁に手で触られ、カバンの中でいろいろな物と衝突している携帯電話の塗膜ほど過酷な使用状況に耐えているものはありません。時折、自動車向けの2液ウレタンとの違いを聞かれる方がいますが、その比ではないと答えています」

――UV照射機の導入も普及を妨げる要因となっています。
「確かにその通りです。試作するところがない、設備がないというのは昔から言われていることです。だからといってそこで止まって良い理由にはなりません。例えば、韓国の現代自動車の自動車生産台数が年間800万台と世界3位に浮上しました。彼らとも取引がありますが、絶えず新しいものを要求し、塗料を変えることに躊躇がありません。今よりコストを下げる、環境負荷の低いものを選択していくという姿勢には学ぶところがあります」

――辛辣な指摘ですね。
「内需産業ならともかく工業品は海外との競争抜きには語れません。新しいものに取り組む動きの弱さに非常に危機感を持っています」

材料と装置の一体化へ

――どこに突破口を据えればいいでしょうか。
「これも前から申し上げていることですが、材料と装置を一体化させることです。需要家が求めているのは、材料でも装置でもありません。求めているものを具現化するシステムにあります。我々も塗装機だけを提案して採用に至ることはありません。実際、顧客からは塗料を含めて提案してほしいとよく言われます。逆もしかりで、塗料だけ提案しても話すら聞いてもらえない時代がきています」

――なぜでしょうか。
「顧客においても明確にコストが算出できないものは採用しないという考えがあるからです。塗装においてもワークに対し、どれだけのスピードでどれくらいの量の塗料を塗布するのか。コストを算出できない技術に関心は呼べません」

――市場構造を変えますね。
「それは変わりますよ。自動車分野は、しっかりとしたサプライチェーンの枠組みがあるため、そう大きな変化はないと見ていますが、工業用は何でもありの状況になると見ています。最終需要家は決して塗料にこだわっているわけではありません。目的が達成できる加飾技術、表面処理技術があれば、どんどん置き換えるでしょう」

――設備や装置メーカーの役割はどうなっていくでしょうか。
「需要家が望むものを材料と装置の観点からまとめ、システムとして具現化する力が必要になります。顧客が示す仕様に添って開発するスタイルでは成り立ちません。重要なのは、顧客が解決したい課題、達成したい目的に対し、ゼロベースからアイデアを生み出し、システムに落とし込むエンジニアリング力にあると考えています」

ものづくりは変わり続ける

――不安定な国際情勢の中、先行きの見極めが難しい状況です。
「確かに世界中が方向性を定められていない印象があります。これ以上コストを下げろと言われてもできないところに、トランプのような関税措置策が出てきたとも言えます」

――需要の奪い合いですね。
「そうですね。ただ閉塞感が強まっている時期だからこそ、イノベーションが生まれる余地があります」

――塗料・塗装に活路はありますか。
「UV塗料の話題に戻りますが100%無溶剤になれば、回収再利用が可能になり、また危険物でなくなるため、防爆も不要になります。熱エネルギーも扱いやすくなります」

――現実にUV塗料の回収システムがあるのでしょうか。
「中国ではどんどんやっていますよ。当社も設備を手がけましたが、溶剤系であっても単一成分のUVクリヤー塗料であれば使い捨ての発想はありません。塗料メーカーが回収・再調整し、再利用する仕組みが構築されています」

――意欲的な取り組みですね。
「重要なのは、考え方を作るということです。当社のパウチ塗料もその一環ですが、常に今あるものにとどまらない姿勢が重要です」

――塗料メーカーにも期待したいですね。以前、塗料メーカーの技術者も多く来られると聞きました。
「担当者レベルでは意欲的であっても組織的には保守的と言わざるを得ません。特にUVに関しては、ユーザー側に装置がないことがネックとなっているようです」

――ユーザーから明確なニーズがないと動きにくい面があります。
 「一度開発した塗料を長年にわたり安定的に供給していく。塗料メーカーにとっては大事なことですが、製造業は常に海外との競争にさらされているという意識を持ってほしいですね。顧客がある日突然、海外との競争に敗れるという局面もあり得るからです。そのためにも常に新しい発想を戦わせながら顧客のレベルアップに努めていかなければなりません」

――現場にいると日々の対応に追われがちです。
「言うまでもないですが、中国はものすごいスピードで進化を続けています。塗装についても想像もしないことを要求してきます」

――どんなことですか。
「例えば2液塗料を使う際、日本は4:1に対応している機器であれば4:1になっていると考えますが、向こう(中国)はそれでは正確に混合されていることにはならないと言ってきます。そうなると、すべての回路にセンサーをつけて測定することになります。また海外には100:1の塗料もあり、装置メーカーとしてはタフな開発要求が当たり前のようにあります」

――日本は現場レベルのサポートも手厚いですからね。
「中国に限ったことではないですが、現場を信用していないということが根本にあるのかもしれません」

――それで設備を磨くわけですね。
「そうです。ただ、そうしたやり方を繰り返していくうちに普通の設備メーカーでは対応できないレベルの設備ができあがってしまうのです」

――佐々木会長は中国の成長の要因をどう見ていますか。
「EV開発にしてもまず国内にある200~300社の競争に勝たなければいけません。無人運転自動車も平気で公道を走らせる中国に対し、規制や管轄がまたがる日本が対抗するのは容易ではありません」

――環境がまるで違いますね。
「新しいものを取り入れながら従来と全く異なる手法でものづくりをするのが中国です。歴史が浅いこともある意味寄与しているといえます」

――技術を積み重ねてきた日本とは違いますね。
「そうですね。そのため塗装においても技能を磨く考え方ではなく、数値で管理しようとします。技能者1人1人のレベルは、日本が格段に上ですが、こと産業的視点においては技能を積み重ねる発想ではアゲインストに立たされています。また今、インドを見ると昔の中国とよく似ています。多くの設備屋がいますが、やがて淘汰され、中国のような巨大企業が誕生するかもしれません」

――インジウムミラーコーティングシステムの進捗について教えてください。
「受注が始まり、来年の頭ぐらいから顧客先での本格稼働になりそうですが、中国の方が早くキックオフするかもしれません。光沢や耐候性も自動車の採用に対し、問題ないレベルを確認しており、普及に期待しています」

――最後にひとことお願いします。
「安全にしても環境にしても法規制の甘さが日本のイノベーションを遅らせたのは間違いありません。この状況が続けば更に世界と水を空けられ、日本のポジションは低下していきます。UVも数ある塗料技術の1つですが、環境、生産性の観点から成長性を十分残しています。世界で存在感を高めるためにも塗料、装置と一体となって革新を目指すことが重要だと思います」

――ありがとうございました。



佐々木栄治氏
佐々木栄治氏

HOMEインタビューインタビュー  "UVが面白い"世界基準の塗装を考える

ページの先頭へもどる