粉体塗料市場の拡大に向け新たな段階にきている。塗料メーカー各社は生産体制を整備することで量的拡大による収益性の確保を目指す。一方で、粉体塗装に新たな価値を見出す動きや、機能性を求める声も目立ってきた。環境配慮、厚膜確保を強みとし、溶剤塗装からの切り替えという段階からもう1段上の新たな役割が期待されてきている。市場拡大には粉体塗料の多様化にフォーカスした展開が求められている。
2016年の粉体塗料の出荷動向は昨年と比べて微減で推移している。1月から7月までの間で見ると、年度末の3月の落ち込みが目立つ。
市場動向として、数年前まで好調だった工作機械や建設機械分野が落ち込みを見せたことが影響している。
その他にも「太陽光発電関連の架台やパワーステーション、通信の中継基地局、コンビニの冷蔵庫の節電型への切り替えの動きなど特需的な需要が終了した」(塗料メーカー)、「水道管が従来の鋳鉄管から、塗装が不要となるポリエチレン管に置き換わってきている」(塗料メーカー)との声もありマイナスの要因が目立つ。
とはいえ、VOCフリーや1コートで厚膜確保が可能、塗料の回収再利用などのメリットを持つ粉体塗料は依然成長分野との見方が支配的だ。継続的に見ると需要は堅調に推移し、繁忙期では新色の納期が数カ月かかることもあり、塗料メーカーの生産キャパがタイトになっている。
塗装現場からすると、「粉体塗料では新案件の色出しに時間がかかるため溶剤塗料に仕様を変更することも少なくない」(塗装専業者)状況になる。こうした需要の機会損失は潜在的なものも含めるとかなりの量に上る。
そこで塗料メーカーが課題としているのが供給体制であり、各社はサプライチェーンの再整備に取り組む。
大日本塗料、関西ペイント、久保孝ペイントは共同でジャパンパウダー製造を設立し、3社で2工場(大日本塗料・小牧工場、久保孝ペイント・兵庫工場)を効率的に活用するのが狙い。大ロット、小ロットなどの適性を生かし同色系でまとめて効率的な製造体制を目指している。
その他の塗料メーカーでも製造設備の一部を効率タイプに置き換えたり、製造ラインを新設したりしてボトルネックの解消を急ぐ。また国内だけなく海外生産の体制も整えており、一部の塗料メーカーでは国内ユーザーへの供給も本格的に開始した。
ただ、国内で大規模な設備投資を行って本格的な製造工場を新設または更新する動きは見られない。塗料メーカー側からすると、粉体塗料の市場価格では、投資分を価格転嫁することが難しく、回収を含め採算性を考えれば新工場に踏み込めないとの判断がある。
しかし、製造設備の老朽化は急速に進んでおり、将来的な粉体塗料ビジネスを考えると本格的な設備投資に踏み切るタイミングが迫っている。
求められる粉体塗料の価値
粉体塗料の供給側が生産強化を図っているのは、「事業として収益性を上げるには量を増やすしかない」との見方があるからだ。溶剤塗料と比べて製造工程数が多く、その分消費エネルギー負担も大きい。ライン管理にかかる人員数も多くなる。
塗料メーカーが生産体制の整備に注力する一方で、粉体塗料に新たな価値を求めているユーザーもいる。
モリタ宮田工業が販売する消火器「アルテシモ」ではアルミ素材に粉体レッドカラークリヤー塗装を施す。仕上がり外観など塗装作業が一般的な粉体塗料よりも難しい上、国内で本格的に普及していない粉体カラークリヤーを採用することで製品価値を上げるとの狙いがうかがえる。
自転車メーカーのコッチでは自社工場で、オーダーカラーを粉体塗装で仕上げている。粉体塗装の特徴を生かしてカラーデザインに価値を見出す戦略だ。
機能性という点でも多様化が求められている。1つの例として建築外装材を扱う塗装会社が求めているのは耐溶剤性や耐薬品性だ。「建築現場に据え付けるとき建材は養生をするが、HAAタイプのポリエステル樹脂系の塗膜は養生跡が付いてしまう。溶剤塗装のときは見られなかった」という。エントランス部分であれば養生跡も目立ってしまい手直しも必要になってしまう。
これなどは細かなものと言えるかもしれないが、こうした些細な事象から普及が阻まれているケースも考えられる。現場でどこに価値を見出すか、供給側としてはどこを重視し需要を創造するかが規模拡大のカギになる。
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